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点と線(十一)崩れぬ障壁04

时间: 2018-01-12    进入日语论坛
核心提示:4 しかし、安田が小樽から乗車することはありえない。なぜなら、そうなると《まりも》より前に函館をたち、小樽に到着している
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 しかし、安田が小樽から乗車することはありえない。なぜなら、そうなると《まりも》より前に函館をたち、小樽に到着していることが絶対に必要である。時間の連絡から考えて、そのことがありえようか。
 だが、この小樽駅から乗ったのではあるまいか、という着想は、三原の気持に何か前進を起こさせた。わけがわからない。今はわからないが、何か奥にひそんでいる、何ものかが、そこにありそうだ。しかも真実の姿で伏せているようだった。
 三原は、冷たくなった紅茶にやっと手を出して飲みおえ、食堂を出た。夢でも見ているように、あたりのものがかすみ、無意識のように階段をおりた。
 安田はなぜ、小樽駅から《まりも》に乗ったのか、なぜ、小樽から乗らねばならなかったのか、──三原は心の中で繰り返して唄のようにつぶやいていた。
 もし、小樽駅から乗ったとすれば、安田は《まりも》よりも前の汽車を、利用しているはずだ。その前の汽車といえば、函館発の十一時三十九分の《アカシヤ》がある。それ以前は、普通が二本と、六時初発の急行があるが、不可能事はいよいよ拡大するばかりである。
 三原は、どうしても安田を二十日の午後十時から十一時の間、九州香椎の情死の現場に立たせなければならなかった。理由はあとで考えればよい。ともかくも安田をその地点にねじふせなければならなかった。すると、博多から北海道の方角に向かうには、翌朝の七時二十四分発の東京行上り急行に固定されるのだ。どう考えても、不可能は堂々めぐりしていた。
「翼(はね)でもないかぎり、安田はその時刻に北海道に行けないが」
 三原は口の中で思わずつぶやいたが、そのとたんに階段の最後を二段すべった。暗かったのではない。
 あっ、と危く叫ぶところだった。どうして今までこれに気がつかなかったのか。耳が鳴った。
 彼は部屋に走るように帰り、おののくような指で時刻表の最後のページを繰った。「日本航空」の時間表であった。念のために、わざわざ一月当時の運行ダイヤを調べた。
福岡8・00→東京12・00(302便)
東京13・00→札幌16・00(503便)
「あったぞ」
 三原は、息を大きく吸った。耳鳴りはまだやまなかった。
 これだと、安田は九州博多を朝の八時にとび立ち、午後の四時には札幌に到着できるのだ。どうして今まで、旅客機に気がつかなかったのか。汽車だけに観念が固定していたから、七時二十四分博多発の急行《さつま》に取りつかれて身動きできなかったのだ。自分の呆(ぼ)けた頭をなぐりたかった。が、妄念(もうねん)はこれで去った。
 三原は日航の事務所に電話をかけた。札幌の千歳(ちとせ)空港から市内までのバスの所要時間をきいた。
「約一時間二十分かかります。そこから駅まで徒歩で十分ぐらいです」
 という返答を得た。
 十六時に一時間三十分を加えると、十七時三十分だ。この時間には安田辰郎は札幌駅に現われることができる。《まりも》の到着時刻二十時三十四分までには、三時間の余裕がある。──彼はそこでどうしていたか。
 三原の指は、函館本線の上りを捜索した。
 十七時四十分札幌発の普通列車がある。指をすべらすと、これが小樽に十八時四十四分に到着する。
 こんどは同じ線の下りを見る。十四時五十分函館を出た急行《まりも》は、小樽に十九時五十一分に着くではないか。その間一時間七分の幅がある。安田は小樽駅でゆっくりと待って《まりも》の客になることができるのだ。彼の乗った列車は、ふたたび札幌の方へ逆戻りする。稲村氏にはその直後に顔を見せたに違いない。
 安田辰郎が、小樽をすぎてからはじめて稲村氏に姿を見せた理由はこれでわかった。彼は札幌で三時間をむだに費しはしなかった。空港からのバスを終点で降りると、駅まで大股で歩き、十分後に発車する小樽までの普通列車に駆けこんだのだ。
 札幌では十分、小樽では一時間七分、これだけの時間を彼は見事に利用したのだ。それは、あの東京駅での四分間の見通しの利用を連想させる。ああ、安田辰郎という人物は時間の天才だ、と三原は驚嘆した。
 三原は、笠井主任の机に歩いてゆき、時刻表を見せていっさいを説明した。話しながらも彼の声はまだたかぶってふるえていた。
「やったね、君!」
 主任は聞きおわると、三原の顔を正面から直射するように見た。彼の目にも怒りに似たような興奮があらわれていた。
「やったな、よくやった」
 咽喉の奥から自然にもれるように二度もつぶやいた。
「これで、安田のアリバイは崩れたね。あ、アリバイといっては、おかしいかね?」
 しばらくして主任は言った。
「いや、おかしくありません。安田が情死の時間に現場にいるはずがないという条件は、これで消えたのですから」
 三原は主張した。じっさいにそれは信念だった。
「いるはずがない、という条件が消えれば」と主任は、机の端を指でこつこつと叩いた。
「いたかもしれぬという条件が起こるのか?」
「そうです」
 三原は昂然(こうぜん)と答えた。
「こんどは、その理論を君が証明する番だね」
 主任は言ってから、三原の顔をふたたび凝視した。
「今、ここではできません。もう少し時間をください」
 三原は苦しい顔になった。
「まだわからないところが、たくさんあるというのだろう?」
「そうです」
「たとえば、安田のアリバイの崩壊にしても、まだ完全ではないね」
 主任は微妙な表情になった。三原はすぐそれを理解した。
「石田部長のことでしょう?」
「うむ」
 主任の目と、三原の目とは宙で一線に衝突した。何秒かのたがいの凝視であった。が、先にそれをはずしたのは主任の方だった。
「石田部長の方はいい。それは僕がやる」
 主任は言った。重大なことを複雑に包んだ言い方であった。三原は容易に解した。
 そのことを言葉に出して話すのは今でなくともよい。もっと後でできる。二人の間の空気はそう語っていた。
「それは別としても、まだ崩せぬ山があるぞ。乗船客名簿はどうする? これは人間のいい加減な証言ではない。ぜったいの物的な反証だからな」
 そうだ。それを見たからこそ、函館の駅で三原は打ちのめされたような惨敗を知ったのだ。だが、ふしぎに今はその敗北感がなかった。なるほど、その堅固な壁はまだ崩れない。しかし、前に感じたほどの威圧感はなかった。
「それも破ってお見せします」
 三原が言うと、主任ははじめて笑った。
「元気がいいね、北海道の出張から帰って来たときとはまるで違うな。よろしい、頼むよ」
 三原が机の前から離れようとすると、主任は手を少し上げて引きとめた。
「ね、君。石田部長は念を入れすぎて、とんだボロの端を引きださせたね」
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