なんとも珍しいことである。
「どうしたの、快ちゃん。分からない問題でも出てきたのかな?」本読みの宿題ですら自分のところに持ってこなかった快が、自分のところに来るのは珍しい。
1「うん、こればかりは母さんじゃなかったら答えられないと思って」手渡されたプリントに書かれた文書は、「自分がどのように名づけれたか、そのエピソード調べましょう」ということだった。
しかし、それに夢乃は少しだけ困った顔をした。
「快ちゃん、快ちゃんの名付け親は父さんだわ......」それは今から九年前のこと......
「こらっ!夢乃さんに労働させるな!
夢乃さんの前で酒タバコは一切禁止!
何かあったらお前ら全員減俸ものだからな!」
快が生まれる前のこと。
相変わらず愛妻家であった義臣のわがままで、社員たちはげんなりしていた。
唯一、夢乃が優しい女神であったことだけが救いようだった。
「ちょっと、別に病気じゃないんだからそこまで......」
「だめだ!こいつらすぐに夢乃さんに甘えるから!」
「あなたの仕事のため多分を処理するより、よっぽど楽なんですけどね」
さらりと夢乃は言う。
それに社員達も賛同する。
「社長、愛妻家はいいとして、子供の名前考えてるんですか?」
「当たり前だ。女の子だったら「翡翠」にする」
「ちょっと、それって風野博士が考えてる名前じゃ.......」
「いいんだ。その子はそのうち俺の娘になりそうだし」
このときから義臣はなぜか翡翠のことを予想していたのだった。
「それに、きっと男だよ」
「調べてもないのに分かるんですか?」
氷堂仁が尋ねると、「ああ、間違いなくな。だが、夢乃さんをとられそうだしな......」
生まれてもないのに焼き餅。
その焼き餅は生まれてからさらにエスカレートしたのは言うまでもないが......「だったら「貝」だ」
「はい?」
全てのものがクマションマークをとばした。
2「貝の硬さなら柔軟さもあるだろうし」
「ふざけんな!!!」
社員全員が突っ込んだ!
「せめて「海」とかいえんのか!」
「それかっこよすぎだろ」
「愛情持てよ!」
「で、結局「快」になったのか......」
「そうなの......」
夢乃は少しだけ快が気の毒になったが、そこに父親が乱入する。
「ちょっとまて、その「快」という字を考えた訳も聞け」
「......どうせ「快感」からとたんだろ」
自分の父親ならやりかねない。
だが、以外にまともに義臣は答えた。
3「いや、その日の夜風が俺が生きてきた中で、一番「快い」ものだったからだよ」
ふざけてるかと思ったが、なんとなく快は理解した。
父親を普通の物差しで計ることなど、愚か以外のなんでもないからだ。
「ふ~ん」
そういって快は書き始める。
自分が名づけられたエピソードを......