美しく紅葉しているカエデやトチノキ、赤い実が鈴生りのクロガネモチ、ネオマスブドウを思わせるような淡黄色の実をつけているムクロジ、熟した珠実が弾けているモッコク。カクレミノ、ヤマモモ、ソヨゴ、クスノキなどの木々を久し振りにゆっくりと見上げた。
アキグミ、アヅキナシ、冬苺の赤い実やヤマナスビ、シャシャンボの黒紫の甘酸っぱい実、栗の味に似ているシイの実も食べてみた。いろんな木の実を食べ味わっていると、まるで小鳥にでもなったような気がした。
それからしばらく林道を歩いていくと、脇の松林のなかに枯れる寸前のような
アカマツを見た。近づいて見ると、白く乾いた古い脂や盛り上がって光りながら落ちている新しい脂が、太い幹に幾筋も流れていた。
その時、センターの井上先生が側に来られ、
「これが、松食虫として有名なマツノマダラカミキリが巣くった跡です」
と幹の孔を指さされた。幹には、至る所に沢山の虫食跡が残っていた。
「うわあ。アカマツの悲鳴が聞えてくるような気がする。垂れている脂は、アカマツの流した涙のように見えるわ」
と、私はびっくりして言った。
マツノマダラカミキリと共生しているマツノザイセンチュウが、カミキリと共にアカマツに侵入し、増殖し、樹液の流れを止めてしまう。そして、弱ったアカマツは特有の臭いを放ち、その臭いがさらに沢山のカミキリを集めるのだと、井上先生が話してくれた。
もの言えぬアカマツが脂を流し、精一杯抵抗の姿を見せているようで、私は強いショックを受けた。目前のこのアカマツは枯れてしまわないで、立ち直ることができるのだろうか。無事にこの冬を越して育つのだろうか。改めて周りを見回すと、松葉の茶色がかった枯れそうなアカマツがあちこちに見えた。
田舎で育った私は、子供の頃は秋ともなると、近所の子供同士誘い合っては松林へきのこ採りに出かけたり、松葉かきに行ったりした。冬には家族そろって山へ行き、下草刈り、枝打ち、枯れ木の運び出し、薪作りの手伝い、杉の苗木植えなどをした。これらの山仕事がアカマツを育てる為の大切な条件の一つであったにちがいない。
生活燃料の変化、建築材の変化、外国からの安い木材の大量輸入、高温になり、雨が少なくなったことなどもアカマツを枯らす原因なのかもしれない。
私達の生活が便利になっていく反面、こうした自然破壊が進んでいることを改めて思い知らされた。今、私達がしなくてはならないことは何なのだろう。何ができるのだろう。
私は大きな不安と宿題を抱え込んだような気持で秋の由加山を下った。背後でツツピーツツピーと山雀が高く鳴く声がしていた。