朝のお祈りが終わり次第、バイタルチェック。次に新聞を手渡し、朝食の用意。続いて掃除、洗濯等をするのが、私たちヘルパーの仕事である。
訪問介護の仕事に就いて、二年半が過ぎた。利用者への最初の訪問の時は、先輩のヘルパーに同行して、一人ひとりの細かい支援を習得していく。Mさんは、私が就労して間なしに同行訪問した利用者であった。繁華街のど真ん中の自宅に住み、朝、昼、夕、夜と、一日四回、複数の事業所のヘルパーの生活援助を受けつつ、独り暮らしをしている男性である。下肢の衰えと難聴以外は、お元気である。
Mさんは、今年の三月三日、百一歳の誕生日を迎えられた。Mさんの元気で長寿の秘訣は、一体何だろうか。この二年半、Mさんへの延べ六百回余りの支援をとおして、それが解ったような気がする。
一つ目は、神道への厚い信仰心である。Mさんは、朝、昼、夕の三回、神棚に向かい三十分ほどお祈りをされる。最後には、今日という新しい一日を迎えられたことへの感謝。周囲の人たちへの感謝。遠く離れて住む息子や孫、曾孫への平安の祈り、亡き妻への静かな語りかけを欠かすことがない。「感謝申しあげます」と、神棚へ向かって、何度も深々とお辞儀を繰り返しておられる姿を、毎回目にする。
二つ目は、きちんとした食生活である。朝夕玄米と味噌汁を欠かさず、副食は根菜や青菜、青身の魚、鶏肉等、体に良い食事を心がけておられる。また、食前に飲むクエン酸が体によく効くと確信され、長年飲み続けておられる。
三つ目は、物事への旺盛なチャレンジ精神である。例えば、今回の誕生日に向けて、不自由な手書きに替えて、パソコンを猛勉強され、家族一人ひとりに感謝と自分史とを綴った手紙を記された。気の遠くなるような作業だったが、何時間もかけて根気強く入力され、立派な小冊子が完成した。
今朝も、定番の朝食を作り終えた。玄米、具沢山の味噌汁、焼き鯖に大根おろし、小松菜のお浸し、卯の花、りんご、番茶を配膳してお勧めする。エプロンを掛け、歩行器を必死に押しながら食卓に着かれるMさん。全力投球での、規則正しい一日の始まりである。
Mさんに接していると、サムエル?ウルマンの「青春」という詩を重ね合せてしまう。
「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。???年を重ねただけで人は老いない???」
百一歳を過ぎてもなお、信仰心が厚く、情愛豊かで、向学心旺盛なMさんは、今、青春真っ只中である。今日も、Mさんからパワーをもらい、心に虹色の花を咲かせて退出する。