私は幼い頃から母と二人で暮らしてきた。母が五回目の入院をしたのは、おととしの六月のことだった。
『明日から真子ちゃん、お仕事スタートです。風邪を引かぬように』
『真子ちゃんありがとう!! 又一日楽しい思い出をありがとう』
母の日記には、退院がしたいとか、ここが痛いとか、どこが苦しいとか、そんなことは一言も書かれていない。私へのありがとうと、私への心配で溢れている。自分の体のことよりも、風邪なんか引いてもどうせすぐに治ってしまう健康な私への心配と、ただ病院に毎日会いに行っていただけで、痛みを代わってあげられた訳でも、病気を治してあげられた訳でもない私へのありがとうで溢れている。
親はどうしてこんなにも子供を愛してくれるんだろう。子供は親に心配をかけて、ワガママを言って困らせるのに、それなのに他の誰よりも、私を一番愛してくれる。
母がくれた沢山の愛を、もっと母に返したかった。母が言ってくれた「ありがとう」の回数に見合うだけのことを母にしたかった。
母が亡くなって四カ月が経った。痛み、代わってあげられなくてごめん。産んでくれて、育ててくれて、愛してくれてありがとう。きっと何年経っても変わらない「ごめんね」と「ありがとう」と「大好き」を胸に、私は今日も生きていく。母がくれたこの体で。母がくれたこの命で──。