翌朝、娘が子猫を連れてやってきた。私は玄関で迎えたが、一瞬別人かと思った。二十年近く外国におり、ごく最近帰国していた。電話でのやりとりはしていたが、久しぶりに見る娘であった。
「元気だったか。」私がそう言うと、「元気だわ。それよりも、ママはどう。」と、無遠慮に上がり込んできた。妻は何度か外遊し、娘とよく会っていた。
娘は、叔母の若い頃に似ていた。色白のふっくらとした顔で愛嬌がよく、子供の私とよく話し合う機会があった。姉のような感覚を起こさせた。
早速介護する娘の顔を、私は何度も横目で見ていた。
「パパ、早く濡れタオル持ってきて。それから、お昼が近いから、何か買ってきてよ。」
私は急に、召使になった。少々腹が立ったが、老いては子に従え、と考えてみれば理解できた。娘には、生活力がみなぎっていた。
簡単な昼食後、テレビを見ていたが、娘が先程から私を注視していることに気付いた。
「ねえパパ、白髪が殖えたわね。横の方、耳の上のあたり、真っ白よ。」
なんだ、そんなことかと思った。そして娘を見て、娘もおばさんになっていた。
「今夜、外食しない。」
子猫を抱いた娘が、晴れやかな顔をした。私は子供のように、手を挙げて賛成した。
「パパ、ズボンぐらい、取り替えなさいよ。」
妻はブラシで、髪をとかしている。その妻の後ろに、叔母が立っていた。