「おやっ、優子か?」
先日、庭に娘の姿を見かけました。いつ帰ってきたのかと思いながら二階の窓から眺めていると、庭の隅に置いてある十センチほどの石の前にしゃがみこみ、花と小袋に入ったスナック菓子を供えているではありませんか。
まるで小さなお墓のように。
「お義父さん、お邪魔しています」
振り向くと、婚約者の利文君が立っていました。娘と一緒に来ていたのです。
「優子さん、あのお墓のことを話してくれたことがあります。四、五歳の頃、死んだペットを自分で埋葬したそうですね。もっとも小さい頃だから、ハムスターなのか金魚なのか、どんな動物だったかも覚えていないらしくて。とにかく埋めたという記憶だけが残っているから、毎年お墓参りを続けていると言っていました。僕はそんなやさしい優子さんが大好きなんです」
「----私の知らないうちに、こっそり帰ってきていたのか」
利文君の話を聞いて、なにかグッとくるものがありました。
すると妻が近寄ってきて、こう言ったのです。
「ううん、あれね、ペットじゃないのよ。あの子、おもらししたパンツを埋めて隠したの。私、この窓からずーっと見ていたんだから」
三人は、涙が出るほど大笑いしました。
娘は私たちに見られていることも知らず、パンツのお墓に向かって十字を切っています。
私はこの話を披露宴で話そうか、迷っているのです。