長男が生まれて一週間が経ち、退院の日となった。一応、入院中に、ミルクの飲ませ方、入浴方法等、基本的事項は伝授されていたが、こんなに小さくてか弱い存在を、果たして自分たちだけで育てていけるのか、私は心中穏やかではないどころか嵐が吹き荒れていた。
家に帰って、我が家で初めてのミルクの時間となった。妻がおっぱいを飲ませた後、哺乳瓶でミルクを飲ませるのが私の役目だ。吸い口を息子の口に当てると、息子は吸い口にかぶりつき、勢いよく飲み出した。小さいながらも、一生懸命ミルクを飲む姿に、思わず目頭が熱くなる。ましてや、自分のおっぱいを飲ませる母親にしてみれば、何よりも愛しい存在に思えるだろう。
ほっとしたのも束の間、息子は飲まなければいけない量の半分で飲むのをやめた。鼻と口の間を、吸い口の先でちょんちょんと刺激しても何の反応も示さない。病院では、これぐらいの量を楽勝で飲んでいたのに----。
私は何度も呼びかけ、体を揺すったりしてみたが、やはり息子は無反応である。私の体中から、変な汗が噴き出してきた。
妻が慌てて駆け寄り、息子を抱えあげ何度も呼びかける。二人して、大声で何度も呼びかけた。もう涙が出てきそうだ。
私は動転している頭の中で、病院でのやり方と何か違った点がなかったか必死に考えた。
いや、何も違ったところはない。完璧だ。
私は、息子の鼻先に耳を当ててみた。
スースー。
息子の気持ちよさそうな寝息。おなかがいっぱいになり息子はただ寝ていただけだった。
それはまだ、私たちが新米パパママだった頃の話。