それから10年以上の時が経ち、わたしは高校生になった。当然、昔、自己満足で作ったお守り(?)のことなど記憶の彼方に消えていた。が、ある日、母から、これを覚えているかと、ホッチキスでグチャグチャになった紙きれを見せられた。父は「これを持っていると事故に遭わない」とか言って、その「自称お守り」をずっと財布に入れ続けているという。父の性格からして、単に財布に入れっ放しだったということも考えられるが、それを差し引いても、高校生のわたしに何やらじわ~っと感じ入るところがあった。しかし、父には自分が少々感激してしまったことはもちろん、お守り(?)の存在を知ったこと
すら言わなかった。父と会話が出来なかったわけではない。ただただ、思いも寄らなかっただけである。
更にまた時は過ぎ、父は他界した。最後の財布の中には、お守りもどきは無くなっていた。結局、父とはお守りがどうこう、という話はしないままだった。でも、それで良かったとも思う。お守り袋の中身同様、たいせつなものは、その存在の手触りを時々確認できるくらいで良いと思う。