そんな風だったから、父みたいに威張る人とは結婚しない、私は15歳にしてそう誓っていた。
あれから15年。おおらかで、優しくて、威張らない。そんな人と私は結婚した。…はずなのに、今日も夫は怒って家を出て行った。喧嘩の原因は書けないほどにくだらない。
今日の場合、家に着くや否やテレビをつけた夫に「何か飲む?」と聞いたら返事が無いので「何か飲むって聞いてるのに」ともう一度聞いたら「テレビ見てんのがわかんないのか。別にお茶でいい。」と返ってきたのが発端。苛立ちの言葉をぶつけ合っているうちに、夫は今日も出て行ってしまった。
けんかばかりだった両親を思い出し、母の声が聞きたくなって電話をする。出たのは父だ。「元気か」との声に「また怒らせちゃった」とこたえたらぱたぽたと涙が溢れた。
「大丈夫だからな。泣くな。ほら。大丈夫だから。」父の声が聞こえる。「男はな、悪いとわかっていてもそうは言えないもんなんだ。悔しいかもしれないけどな、お前が「ごめんね」って言ってやれ。うまいもん出して「ごめんね」って言ってやれ。俺もそうだけど男は本当に馬鹿で子どもだからな。」
父が謝るのは聞いたことが無い。その父が、実は自分が「馬鹿で子どもで謝れない」と知っているのかと思ったら、何だかふふっと笑えてきた。
そして、夫がとても愛おしくなる。
やっぱり私はけんかばかりする妻に、そして、母になってしまった。父に似た人を好きになったのだから仕方ない。「お父さん、今度また、うまくやるコツ、教えてね。」