僕はずっと、父にはもっと一般的な仕事をしてもらいたいと思っていた。友達の家のお父さんは毎日朝早くから働いているのに、僕の父は朝は遅いし出かけるのも週何回かの絵画教室で教えるときぐらい。絵があまり売れないと収入が少ないので、ぜいたくもあんまり言えない。さらにその描いている絵が抽象画だから、父の絵の良さが分からなかった。
僕は音楽を聞くのが好きだ。音楽を聞くと、歌詞やメロディーそれぞれから、作った人の想いや、いろんな情景が浮かぶ。時には、元気づけてくれたり、感動させてくれたりする。しかし中には、売れるように売れるようにと、作られているような曲もある。そんな曲からは、上辺だけのものしか伝わってこない。
絵も同じだと思う。人に買ってもらうためだけに描いたような絵には、
「上手い絵だなぁ。」
ぐらいの感想しか持てない。自分の想いを純粋に表現している絵には、たとえ多くは売れなくても、それを見た人に様々な想いを抱かせるだろう。
僕は最近になってやっと、父はそんな絵を描いていることに気がついた。父の絵は、皆に受け入れてもらえるような絵ではないと思う。でも父の絵は、色使いや筆の動きそれぞれから父の想いが伝わってくる。そんな絵だ。僕が生まれる前から現在まで、ずっとその絵は変わっていない。自分の想いを純粋に表現し続けている。そんな父の姿を、初めて心から誇らしく思った。
今では、父の「画家」という職業を大いに自慢できる。