母が健在の頃から、両親と、お酒を浴びるように飲む兄との仲は、しっくりいかなかった。そして母がクモ膜化出血で倒れ、約2ケ月半の闘病の末亡くなった後は、父と兄の関係は修復しがたい程にこじれていった。母の死を自分のせいだと自らを責め続ける兄には、お酒以外に逃げ場が無かったのかもしれない。酔って暴言を吐き暴れる兄を、父は悲しい目で見ていた。そしてそんな生活が災いして、兄も亡くなった。父は「悲しいけれど、正直ホッとした。」と私に言った。
私は、実家に戻りしばらくたってから、母が亡くなって以来そのままになっていた、家の中の片付けを始めた。そんなある日見付けた手紙の束の中に、父から母に当てた手紙があり、私は父には内緒でそっと開いてみた。
それは私が生まれて間もなく、父が出稼ぎ先から出したものだった。内容は、「たまにしか会わないので、子供たちが自分の顔を見て泣きだしたのがショックだった」とか、「早く一緒に暮らしたい」とかたいした内容では無いのだけれど、家族に対する愛情が溢れていた。
私は涙が止まらなかった。兄が生きている間に、ひと目見せてやりたかったという気持ちで、胸が一杯になった。仏壇の隅に父の目にふれぬようにそっと手紙を置き、心の中で「兄ちゃん、私たちはこんなにも愛されて育ちました。」とそっと呟いてみた。
そしてその父も昨年亡くなり、私は本当に一人きりになってしまった。でも今これを書いている間も、私の前には3人の写真が有り、今も3人からの愛情を感じている。