わが家はバーべキューをしなくなってから二五年余になる。それまで賑やかだった。ホームセンターでバーベキューセット・炭・木製椅子・照明器具を購入。小学一年の息子が主賓。夕暮れを待って庭に照明器具を設置し団扇で使って火をおこす。主賓の息子は火の周りではしゃぐ。火に勢いがつくと、妻に肉と野菜、おにぎりを運んでもらう。私は缶ビールを左手に豪快に焼く。息子と妻に抱っこされた娘は椅子に座り、焼き上がるのを待って麦茶を飲む。やがて箸が次々伸びる。
娘が小学生になると近所の女の子も加わり庭は最高に賑わった。そのうち、バーベキューの主賓が息子から娘に替わった。息子はテレビの画面が気になるのだ。焼きあがるとやって来て食べ、食べるとテレビの前に行く。それから間もなく、娘も息子とテレビを見る時間が長くなった。焼きあがった肉と野菜を前に、私の子どもを待つ時間も長くなった。パチパチはねる炭火の音を聞きながらビールを飲んでいると、妻が出て来て言った。「だれも居ないのね」と。「ウーン、一人バーベキュー」、仕方なく苦笑した。
今、子どもたちは自立して家にいない。「父親主催のバーベキューから離れたのも自立の一歩だったのか。あれでよかったのだ」
となりの庭で大人の声も高くなった。
妻が台所から出て来て言った。「フフフ、一人バーベキュー」と。「そう、一人バーべキュー」私も笑った。そして、切なかった。