あたしはおかんが嫌いだけど、おとんは大好きだ。芸大の写真学科に行きたいって言ったときも、おかんはつぶしがきかないと言って反対していたけど、おとんはやりたいことをやるべきと賛成してくれた。おとんは良き理解者だった。 日に日にやつれていくおとんが確実に死ぬと決まってから、あたしはおとんが楽しそうなところを撮影することに決めた。バイト先のギャラリーが2週間個展をさせてくれると言ってくれた。大好きなおとんの写真集をつくろうと決めた。死んでゆく人の最期を写真に撮るなんて不謹慎だ、という人もいるかもしれない。でもおとんはオモロそうやんと言ってくれた。
病室で呼吸器をつけられたおとんを撮影した。おとんが営んでいたうどん屋の常連客が次々と病室に訪れて、あまり話すことはできないけどやさしい表情で迎えるおとんを写真に撮った。
おとんが亡くなって、おとんの写真展を開いた。ギャラリーに訪れたおとんの常連客や弟子たちは涙を流し、写真集をめくりながら、おとんとの思い出を語ってくれた。写真はあたしとおとんとの共同作品になったと思う。
おかんとの関係も少しずつよくなってきている。あたしはおとんの子どもに生まれて良かったと思う。