怒りの沸点が100度に達し、どうにもこうにも抑えられない。中学2年生の良太は、まるで言うことを聞かない。バスケ、寝る、食べる、寝るの基本生活を送り、学力はみるみる低下、屁理屈だけはこねまくりの毎日だ。
成長期の食欲なのか、買っても買っても冷蔵庫の牛乳は忽然と消える。夫の給料で家のローンを払い、私のパート代は牛乳と塾代へと変わる。
パートから疲労困憊して帰ってくれば、まず飛び込んでくるのが玄関に蹴っとばしてある大きなスニーカーと、娘の運動靴。第1関門をクリアすると、リビングの入口に放り投げてあるランドセルや良太の補助バッグ(またこれが重い)や脱ぎ捨てたままの汚い制服。もうこの辺で、コメカミのあたりがキーっとなっているのだが、子供達に雷を落とすものの、ゲームや本に夢中で私の声なぞ全く届かない。
疲れる、本当に心の底から疲れを感じる。
残念な学力テストの結果でさらに眩暈を覚え、「別に」「どうでも」という良太の言葉に全身の力が抜け、そして強烈な悔しさが私を襲う。
お母さんはね、勉強だってバスケだって、あんたが一生懸命やってそれで負けて、悔しいって言うんだったら何も言わない、なのに何なの、あんたのその態度は。不毛な言い合いの後、良太はプイと2階にあがっていった。
今年最大のバトル勃発が、哀れな私の「母の日」前夜であった。
5月13日、手作りのカーネーションなんぞを作ってくれた遠き日を思い浮かべ鬱々と過ごすのもバカらしく、実家に帰り愚痴をぶちまけたが腹の虫は治まらない。良太とは口も聞かず顔も見ず、戦闘態勢はいまだ解けぬままベッドに入ろうとすると、赤いパッケージの板チョコ1枚と、殴り書きで「ごめん、感謝」とメモがあった。
「ふん」である。
「ふん、こんなもんで」だ。
もっとおこづかい持っているだろうに、板チョコ1枚かよ、と毒づきながら、やはりどうしても心の中がホンワリとしてしまう。
チョコは甘くてほろ苦くて美味しかった。
とっても悔しい。