その一はトイレットペーパーのことですの。
常識ある礼儀正しい女性は、使ったあと紙の端を三角に折っておくのです。
これは次に使用する人が紙を引っぱりやすくするためで、とても思いやりのある行為です。
でも、私はあれがいやなのです。なぜって、トイレの中で用をすませた女性があのペーパーの端を折るとき、指先はご自分の不浄を拭われたあと、ですわね。いったん外へ出て手を洗って、また中へ入って紙を折る人はまずいないと思うからです。
あの三角、とても汚ないと思われませんか。
その二は返信封筒の宛先のことですの。
日本人は常識として、返信依頼封筒には「山川太郎行」または「海野花子宛」と記すように教えられてきました。ふるい礼儀正しい人ほどこれを守られます。自分の宛名に「様」なんて書いておくと「ヒジョウシキな人」または「物識らずねえ」と言われるのがこわいからでしょう。
しかしこれ、出す側になってみると実に厄介なんですね。行・宛をいちいち消して様と書く。これがまた常識とされているのですが、大量に出すときなどたいへんな時間のロスですわ。
その三はお祝のことですの。
杜子春の原作と芥川の作を較べてもわかりますように、日本人はなぜか現金をいやしむヘキ《ヽヽ》がありますのね。
ほんとはお金がいちばんありがたいのに、それを口にするのは非常識。
贈るほうも「何か品物をといろいろ考えましたが思いつきませず、失礼とは存じますが……」と、現金を恐縮なさる。
みなさまも覚えがおありでしょう。祝い事の予算は立てていても、雑費ってのがばかになりません。そんなとき現金を頂くとほっとします。正に助け舟。
コーヒーセットやカレー皿をわんさと積み上げてもお金に化けてはくれませんものね。
というわけで、私は、トイレットペーパーの端を三角に折りません。その代り、もしも掃除のおばさんと出くわしたら「ありがとう」と言うことにしています。
そして私は返信封筒に笑われてもいいから「様」と書いておきます。
もちろんお祝は現金。たとえ五千円でも三千円でも、それは一万円のコーヒーセットにまさる贈り物であることを信じているのです。
間違ってるでしょうか。