小川未明
にわの コスモスが、きれいに さきました。しずかな 秋の いい ひよりです。
ピイー、ピイーと いう、ほそい ふえの 音が しました。
「ラオの すげかえやが きたから、この きせるを たのんで おくれ。」
と、おばあさんが おっしゃいました。
「はい。」
と いって、きよは うけとって そとへ でました。
しばらく して、きよは かえって きました。
「いくら さがしましても、ラオやさんが みつかりません。」
と いいました。
この とき、また ピイー ピイーと いう 音が しました。
「あんなに きこえて いるでしょう。」
と、おばあさんは おっしゃいました。
「ぼくが さがして あげるよ。」
と、武ちゃんは かけだしました。
武ちゃんは、おうらいを あちらこちらと みまわしました。けれど、やはり わかりません。
「ラオやさんは どこに いるのだろう、ほんとうに おかしいな。」
と、武ちゃんは ぼんやり たって いました。
空は 青く はれて いました。あの はこの ついた 車を ひいて、おじいさんは どこを あるいて いるのかと おもいました。
「武ちゃん、やきゅうを しない?」
と、ふいに 年ちゃんが かたを たたきました。
「いま、これを うちへ おいて くるからね。」
と、武ちゃんは こたえました。
「おばあさん、やはり いませんよ。」
と いうと、おばあさんは、
「ああ そうかい、秋だから 遠方の 音が、ちかく きこえるのかも しれないね。」
と おっしゃいました。
武ちゃんは いそいで はらっぱへ いくと、もう みんなが あつまって いました。正ちゃんと 良ちゃんは、あたらしい ユニホームを きて いました。
「さあ、はじめようか。」
と、ピッチャーの 正ちゃんが プレートに たちました。そうして、たまを にぎった 手を たかく あげると、みんなが いっしょに ブウー、と サイレンの まねを しました。その こえは、ほんとうの サイレンのように とおくまで ひびきました。
これを ききつけて、あちらから、きみ子さんと かね子さんが とんで きました。