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新しい町(2)

时间: 2022-09-13    进入日语论坛
核心提示:新しい町小川未明 もくら、もくらと、白(しろ)い雲(くも)が、大空(おおぞら)に頭(あたま)をならべる季節(きせつ)となりました。
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新しい町

小川未明

 


 もくら、もくらと、(しろ)(くも)が、大空(おおぞら)(あたま)をならべる季節(きせつ)となりました。(とお)くつづく(みち)も、りょうがわの(まち)も、まぶしい()(ひかり)をあびています。戦争(せんそう)のためやけたあとにも、(あたら)しいバラックができ、いつしか(むかし)のようなにぎやかさをとりかえし、この(さき)発展(はってん)をにおわせて、なんとなく、わかわかしい希望(きぼう)(かん)ずるのでありました。
 (みち)ばたの露店(ろてん)は、たいてい戦災者(せんさいしゃ)か、復員(ふくいん)した(ひと)たちの、生活(せいかつ)をいとなむのでありました。勇吉(ゆうきち)は、おかあさんと、毎日(まいにち)ここへでて、ろうそくや、マッチや、うちわなどをならべて、あきなっていました。
 その(まえ)(とお)(ひと)(なか)には、よごれた(ふく)をきて、まきぎゃはんをはき、おもそうなリュックをしょい、いま戦地(せんち)から、もどったばかりというふうな(ひと)もありました。そうかと(おも)うと、はでな着物(きもの)をきて、(うつく)しい()がさをさす(おんな)(ひと)もありました。
 きょうは、勇吉(ゆうきち)ひとりで、露店(ろてん)へでていました。そして、おとうさんがまだ()きていてひょっこりかえってくるのではないかと、空想(くうそう)にふけりながら、あてもなく(まち)(みぎ)(ひだり)をながめていました。
 かれのとなりには、おじいさんが、げたの(みせ)をひろげていました。そのおじいさんは、なにかとせわをしてくれたり、うちとけて(はなし)をしてくれる、したしみぶかい(ひと)でした。だまっているときは、よくおじいさんは、いねむりをしていました。しかし、ねむりきっているのではないから、なんでも、よくわかっているようです。
「おじいさん、そこへへび()ができましたね。」と、勇吉(ゆうきち)(はな)しかけると、
「もと、あちらの(かど)にあったのが、やけたので、こっちへ、(うつ)ってきたのだろう。」と、おじいさんは、()をとじたままで、こたえました。
(まえ)には、いろんな()きたへびが、びんの(なか)に、(はい)っていましたね。こんどは、()きたのがいませんよ。」
「そうかい、いなくなったか。」と、おじいさんはいって、だまってしまいました。それは、ねむってしまったのでなく、(かんが)えごとにふけったからでした。
 おじいさんは、そのへび()が、まだ、あちらの(かど)にあってやけない(まえ)には、よく(みせ)さきに()って、びんにはいっている(あか)()をした(あお)いへびや、(あたま)(おお)きい(くろ)いへびをながめながら、それらのどくへびがすんでいるジャングルで病死(びょうし)した、おいのことを(おも)ったのでした。
「あの()も、戦争(せんそう)さえなければ、()ななかったのに。」
 ふと、おじいさんは、いまもまたそう(おも)って、()をあけると、勇吉(ゆうきち)が、
「おじいさん、南方(なんぽう)からは、もうみんな、復員(ふくいん)してしまったでしょうね。」と、きいたのでした。
「なんでもそんな(はなし)だな。」
「やはり、うちのおとうさんは、()んでしまったのか。」と、勇吉(ゆうきち)は、つぶやきました。
「ううん。」と、おじいさんは、同情(どうじょう)するようにいって、勇吉(ゆうきち)をば()ました。
「きょうは、おまえさんひとりなのか。おかあさんは、どうなさった。」
(おとうと)がかぜをひいたので、(やす)んだのです。」
「それはいけないな。今度(こんど)戦争(せんそう)は、どれほど(ひと)()かしたか。まだかえらない(ひと)にもうひとり、(おも)いだす(ひと)があるよ。」と、おじいさんはいいました。
「それは、どんな(ひと)ですか。」
(ふゆ)(さむ)(ばん)のことだった。露店(ろてん)射的(しゃてき)に、おかみさんがあかんぼうをだいて、カンテラのそばにすわっていた。そこへかくぼうをかぶった、学生(がくせい)さんがやってきて、じょうずに、ポン、ポンたばこをうちおとしたのだ。はじめのうちは、うまいなと(おも)って、()ていたが、しまいに、おかみさんがきのどくになって、この(おんな)主人(しゅじん)も、たぶん戦争(せんそう)にいっているのだろうと(おも)うと、だまっていられなくなって、『学生(がくせい)さん、すこしさっするものだよ。』といった。すると、学生(がくせい)さんはふりかえって、『おじいさんしんぱいしなさんな、ぼくは、一つだけもらって、あとはおいてゆきますよ。こうしてあそぶのは、今夜(こんや)だけですからね。』といった。わしは、おどろいて、『えっ、今夜(こんや)だけ。』とたずねると、『ぼくは飛行兵(ひこうへい)志願(しがん)したので、あす南方(なんぽう)出発(しゅっぱつ)するのです。』といったが、たぶん、あの学生(がくせい)さんはかえってこまいと(おも)ったのさ。」と、おじいさんは、まただまってしまいました。
 勇吉(ゆうきち)は、さっきからおじいさんのだまっていた心持(こころも)ちが、わかるような()がしました。
 あちらへ、(あか)風船球(ふうせんだま)()屋台(やたい)がでました。また、金魚売(きんぎょう)りが、()をおろしていました。まわりへこどもらが、(あつ)まっています。その風景(ふうけい)は、(いま)(むかし)と、すこしの()わりもありません。ただ、ぼくや(しょう)ちゃんがあの(なか)にいないだけだと、勇吉(ゆうきち)(おも)ったのでした。
 ここへ、(みせ)()してから、じき一(ねん)になるが、毎日(まいにち)()っても、おとうさんはかえらないばかりか、(なか)よしの(しょう)ちゃんまでとおらないのが、勇吉(ゆうきち)には、たまらなくさびしく(かん)じられました。
 まれに、おかあさんを()(ひと)が、(とお)りかけて、
「まあ、こんな、お(ちい)さいのに。」と、自分(じぶん)()ていうと、おかあさんまでが、
「いまから、くろうさせたくないのですが。」と、(こた)えるのです。勇吉(ゆうきち)には、それがいちばん(かな)しいのでした。そこへいくと、となりにいる、おじいさんは、
「なに、(おとこ)だものな。いまから、(つよ)くならなければ。」と、はげましてくれる。それは、どんなに自分(じぶん)を、元気(げんき)づけたかしれないと、勇吉(ゆうきち)(おも)いました。かれは、きゅうに、おじいさんがしたわしくなって、
「ねえ、おじいさん、ごらんなさい。(あか)風船球(ふうせんだま)は、きれいでしょう。」と、(はな)しかけたのでした。すると、おじいさんは、(かお)をあげて、
「おお、あれか。なるほどきれいだな。わしは、()がかすんで、よくわからぬが、なにかほかにもついているようだな。」といいました。
風車(かざぐるま)に、(はた)に、風鈴(ふうりん)なんかですね。」
「そうかい、()どものほしがるものばかりだ。」
 つぎの()には、もう勇吉(ゆうきち)(おとうと)病気(びょうき)がなおったので、おかあさんは、露店(ろてん)()ていました。
 とき(いろ)(くも)が、(まち)のやねを()おろす午後(ごご)のことであります。
「さっきから、ゴロ、ゴロいっているが、夕立(ゆうだち)がくるらしい。」と、おじいさんがいうと、
「いえ、どこか(とお)くで、工事(こうじ)をしているんです。毎日(まいにち)、あんな(おと)がきこえます。」と、勇吉(ゆうきち)(こた)えました。
「ひるまは、トタンがやけるので、バラックではやりきれません。」と、勇吉(ゆうきち)のおかあさんがいいました。
 こんな(はなし)をしていたとき、あちらから、せの(たか)(おとこ)が、おどるような(あし)どりで、なにかつぶやきながら、きかかりました。(とお)(ひと)は、みんなその(ほう)()ていました。やはり戦闘帽(せんとうぼう)にまきぎゃはんをして、復員兵(ふくいんへい)らしく、一つ一つ露店(ろてん)をのぞきながら、こちらへ(ちか)づき、おじいさんの(みせ)(まえ)までくると、
「ここは、げただな。げたばかりか。こんなもの()べられない。」といいました。
 その(おとこ)(かお)は、()にやけて(くろ)く、()(ひか)って、ひげは、やみあがりのようにのびていました。こんどは、勇吉(ゆうきち)(みせ)(まえ)(あし)をとめて、
「ここは、ろうそく、マッチ、かやりせんこう、色紙(いろがみ)、みんなたべられないものばかりだ。」と、ひとりごとをしてから、トテ、トテ、トー、トッテ、トッテ、ターと、(くち)でらっぱのまねをしました。さっきから、そのようすを()ていたおじいさんが、
「にいさんは、どちらから、おかえりですか。」と、ききました。
「おれかい。ニューギニアだ。おれはへびもたべたし、とかげも、青虫(あおむし)も、なんでもたべた。まだ、ろうそく、マッチは、たべなかったよ。」
 こうまじめにいうので、だれもおかしいと(わら)うものはありませんでした。
 トテ、トテ、トー、トッテ、トッテ、ター、(おとこ)はらっぱの(おと)をくりかえしながら、あちらへ()りました。おじいさんは、その(うしろ)ろすがたを()おくって、ためいきをつきました。
「おきのどくに、()がへんなんですね。」と、勇吉(ゆうきち)のおかあさんがいうと、
戦争(せんそう)、わるいんだ。」と、おじいさんは、こたえて、こちらへむきなおり、
(ゆう)ちゃんは、はやく(おお)きくなって、かわいそうな(ひと)たちの、(ちから)になっておやり。」といいました。
 勇吉(ゆうきち)は、()にいっぱいなみだをためて、だまってうなずきました。

 

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