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田舎のお母さん

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:田舎のお母さん小川未明 奉公(ほうこう)をしているおみつのところへ、田舎(いなか)の母親(ははおや)から小包(こづつみ)がまいり
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田舎のお母さん

小川未明


 奉公(ほうこう)をしているおみつのところへ、田舎(いなか)母親(ははおや)から小包(こづつみ)がまいりました。あけてみると、着物(きもの)がはいっていました。そして、母親(ははおや)からの手紙(てがみ)には、
「さぞ、おまえも(おお)きくなったであろう。そのつもりでぬったが、からだによくあうかどうかわかりません。とどいたら、()てみてください。もしあわないようでしたら、夜分(やぶん)でもひまのときに、なおして()てください。」と、()いてありました。
 おみつは自分(じぶん)のへやにはいって、お(かあ)さんからおくってきた着物(きもの)をきてみました。田舎(いなか)にいるときには、お正月(しょうがつ)になってもこんな着物(きもの)をきたことがなかったと(おも)いました。自分(じぶん)だけでなく、(むら)でもこんな(うつく)しい着物(きもの)をきる(むすめ)は、なかったのであります。
 彼女(かのじょ)は、しばらく自分(じぶん)のすがたに()とれていました。ちょうどそこへ、(ぼっ)ちゃんが(そと)からたこをとりにはいってきて、おみつのようすを()たので、
「みつ、それを()ると、なんだか田舎(いなか)()みたいになるよ。」といって、(わら)いました。
 おみつも、田舎(いなか)では(うつく)しいのであろうけれど、(みやこ)ではみんながもっと(うつく)しい着物(きもの)()ているから、あるいはそう()えるかもしれないと(おも)うと、(きゅう)にはずかしくなって、
「なぜ、お(かあ)さんはもっとはでなのをおくってくだきらなかったのだろう? わざわざおくってくださらずとも、自分(じぶん)がすきなのをこちらでこしらえればよかったのに……。」と、(こころ)でいいながら、着物(きもの)をぬいで、行李(こうり)(なか)へしまってしまいました。
 (ばん)になって、おしごとがおわりました。彼女(かのじょ)自分(じぶん)のへやへはいってひとりになると、しみじみとして田舎(いなか)のことが(かんが)えられました。行李(こうり)から着物(きもの)をとりだしました。(むら)からあの(とうげ)をこして母親(ははおや)(まち)()て、機屋(はたや)でこの反物(たんもの)()い、(いえ)にかえってからせっせとぬって、おくってくださったのです。そう(かんが)えると、また、いくたびかこのぬいかけた着物(きもの)()にとりあげて、
(むすめ)にあうかしら?」と、(くび)をかしげて見入(みい)られたであろう母親(ははおや)のすがたさえ、()にうかんでくるのでした。
 おみつは、お(かあ)さんの手紙(てがみ)着物(きもの)(うえ)でひらいて、もういちどよみかえしているうちに、あついなみだが、おのずと()(めなか)からわいてくるのをおぼえました。
「せっかく、おくってくださったのを、()()らないなどいって、ばちがあたるわ。」
 そう(おも)うと、彼女(かのじょ)(こころ)からありがたく(かん)じて、すぐにお(れい)手紙(てがみ)()いて、お(かあ)さんに()したのでした。
 ある()、おみつはお(じょう)さんのおともをして、デパートへいったのであります。
「そんなじみな着物(きもの)しかないの?」と、()がけにお(じょう)さんがおっしゃいました。
 おみつは、(かお)(あか)くしましたが、(こころ)(なか)で、お(かあ)さんのおくってくださったのを、たとえじみでもなんのはずかしいことがあろうかと、自分(じぶん)をはげましていました。
 ひろびろとしたデパートは、いろいろの品物(しなもの)でかざりたてられていました。そして、そこはいつも(はる)でありました。香水(こうすい)のにおいがただよい、南洋(なんよう)できのらんの(はな)がさき、(うつく)しいふうをした(おとこ)(おんな)がぞろぞろ(ある)いて、まるでこの()(なか)苦労(くろう)()らぬ(ひと)たちの(あつ)まりのようでありました。
「みつや、(ひと)がみんな、おまえのふうを()ていくじゃないの。そんな田舎(いなか)ふうをしているからなのよ、みっともないわ。」と、お(じょう)さんがいいました。
 これをきくと、おみつはまだ(わか)(むすめ)だけに、
「いくらお(かあ)さんがおくってくださったのでも、ほかの着物(きもの)()てくればよかった。」と、(おも)いました。
 お(じょう)さんは()(もの)をして、その(つつ)みをおみつに()たせて、それから食堂(しょくどう)にはいっておみつもいっしょにご(はん)をたべ、コーヒーをのんで、(やす)みました。そして、そこを()ました。
「みつや、東北地方(とうほくちほう)物産(ぶっさん)展覧会(てんらんかい)があるのよ。きっとおまえの(くに)からも、なにか名物(めいぶつ)()ているでしょう。ちょっと()ましょうね。」と、いって、お(じょう)さんは(さき)になってその会場(かいじょう)へおはいりになりました。
 おみつも、その(あと)からついてはいりました。
 そこには、田舎(いなか)でつくられたおり(もの)とか、道具(どうぐ)とか、おもちゃのようなものがならべられてありました。デパートの(ほか)()()では()ることができないような、けばけばしくはないが、じみで(うつく)しい、おもしろみのある品物(しなもの)がありました。一つ一つ()(ある)いていらしったお(じょう)さんは、ふいに(あし)をとめて、
「ちょっと、ここにならんでいる反物(たんもの)は、おまえの(くに)(まち)からなのよ。まあ、みつや、この反物(たんもの)は、おまえの()ているのと(おな)じでないこと!」と、お(じょう)さんはおっしゃいました。
 おみつもそれを()ると、しまがらがすこしちがっているだけで、まったく自分(じぶん)のと(おな)()おり(もの)でありました。つけてあるねだんを()て、お(じょう)さんは二()びっくりして、
「まあ、(たか)いのね!」と、(おお)きな(こえ)でおっしゃったので、そばにいる(ひと)たちまでが陳列(ちんれつ)された反物(たんもの)とおみつの着物(きもの)とを()くらべて、この女中(じょちゅう)さんはなかなかいい着物(きもの)()ているのだなといわんばかりの(かお)つきをしたのであります。
 おみつはそれを()ると、はじめて自分(じぶん)がいい着物(きもの)をきているのを()ってうれしかったというよりか、自分(じぶん)故郷(こきょう)ではこんないい反物(たんもの)ができるということに、(ほこ)りを(かん)じたのでした。やがて、会場(かいじょう)からでるとお(じょう)さんは、
「ごめんなさい。みつの()ているのが、そんないい(しな)だとは()らなかったので、悪口(あっこう)をいってすまなかったわ。」と、いって、おわびをなさいました。
 おみつはまた、(かお)(あか)くしました。しかし(こころ)のうちでは、(よろこ)んでいたのであります。そして、お(かあ)さんをほんとうにありがたくなつかしく(かん)じました。

 

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