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魚と白鳥

时间: 2022-10-17    进入日语论坛
核心提示:魚と白鳥小川未明 河(かわ)の中(なか)に、魚(うお)が、冬(ふゆ)の間(あいだ)じっとしていました。水(みず)が、冷(つめ)たく、そ
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魚と白鳥

小川未明


 (かわ)(なか)に、(うお)が、(ふゆ)(あいだ)じっとしていました。(みず)が、(つめ)たく、そして、(なが)れが(きゅう)であったからであります。(みず)(そこ)は、(くら)く、陰気(いんき)でありました。
 (うお)子供(こども)は、(なが)(あいだ)、こうして、じっとしていることに退屈(たいくつ)をしてしまいました。(はや)く、(みず)(なか)自由(じゆう)(およ)ぎたいものだと、(からだ)をもじもじさしていました。
 けれど、母親(ははおや)は、よくいい(さと)したのであります。
「もうすこし辛棒(しんぼう)しておいで、じきに(はる)になる。そうすれば、(みず)(うえ)(あか)るくなって、(みず)もあたたまりますよ。そうなったら、自由(じゆう)(およ)ぐことを(ゆる)してあげよう。」
 子供(こども)は、お(かあ)さんに、こういわれると、おとなしくしていなければなりませんでした。しかし、それは、元気(げんき)のいい子供(こども)には、なかなか退屈(たいくつ)なことでありました。
 ある()のこと、子供(こども)は、(きゅう)に、(あたま)(うえ)が、(あか)く、ちらちらするのを()ました。子供(こども)は、(よろこ)んで(おど)りあがりました。
「なんという、(あか)い、(あか)るい(ひかり)だろう。(はる)になったのだ!」と(さけ)びました。子供(こども)は、すぐにも、その(あか)(ひかり)(した)っていこうとしました。
 すると、母親(ははおや)は、あわててそれを()めました。
「おまえ、あれは、(つき)(ひかり)でも、太陽(たいよう)(ひかり)でもないのだよ。あれを()て、いこうものなら、たいへんなことだ。もう、おまえは、二()(わたし)のところへは(かえ)ってこられない。あの(あか)いのは、人間(にんげん)が、()をたいているのだよ。そして、(わたし)たちをだまして、(みず)(うえ)()()せようとしているのです。もし、いってごらん。人間(にんげん)が、(おお)きな(あみ)で、みんなすくってしまうから……。」と、いいきかせました。
 子供(こども)は、なんという(おそ)ろしいことだろうと(おも)いました。じっと、(みず)(そこ)(しず)んで、(くら)(うえ)(ほう)で、(ひと)ところだけが、(あか)く、(いなずま)のように、ちらちらと火花(ひばな)()らしているのを、(おそ)ろしげにながめていました。
「お(かあ)さん、(はる)になると、どうなるのですか?」
と、子供(こども)は、いいました。
 子供(こども)は、去年(きょねん)(はる)()まれたので、まだ、今年(ことし)(はる)にはあわないのであります。すると、母親(ははおや)はいいました。
(はる)になると、(みず)(うえ)が、一(めん)(あか)るくなるよ。けっして、あのように、(ひと)ところだけが、(あか)く、(あか)るくなるというようなことがありません。」と、よく(おし)えました。
 子供(こども)はそれから、(くら)(みず)(そこ)を、お(とも)だちと、あまり(とお)くへはいかずに、(およ)いでいました。なんといっても、(みず)(そこ)(くら)いので、それに、そこばかりにいると()きてしまって、(はや)く、自由(じゆう)に、(ひろ)世界(せかい)()てみたかったのです。
「ほんとうに、(はや)く、(はる)がくるといいな。」
と、子供(こども)は、お(とも)だちに()かっていいました。
(はる)になると、(みず)(うえ)が一(めん)(あか)るくなるということだから、よくわかるね。」
と、(とも)だちは(こた)えました。
「いったい、(みず)(うえ)から、(うえ)は、どんなところだろうか? ()たいものだね。」
(みず)(うえ)()かんで(およ)ぐと、(そら)というものが()えるそうだ。その(そら)に、太陽(たいよう)(かがや)けば、(よる)になると、(つき)()るのだということだよ。」と、(とも)だちは、だれからか()いたことを(かた)りました。
 ある()のこと、(みず)(うえ)が一(めん)(あか)るくなりました。子供(こども)は、今度(こんど)こそ、(はる)になったのだと(おも)いました。そして、(とも)だちといっしょに(はは)(ゆる)しも()ずに、勇気(ゆうき)()して、(うえ)へ、(うえ)へと()かんでみました。
(ぼく)たちは(そら)()よう。」
(つき)()ようね。」
 こう(かれ)らは、途中(とちゅう)希望(きぼう)(かがや)(ひとみ)(うえ)()けて、(かた)()いました。
 みんなは、とうとう(うえ)へいって、(あたま)(かた)いものに()ちつけてしまいました。
「なんだろうね?」
と、一人(ひとり)(さけ)びました。
「ああ、わかった。(そら)に、(あたま)をぶっつけたんだ。」
と、(とも)だちの一人(ひとり)はいいました。
「どこに、(つき)があるのだろう……。」
「きっと、どっかに(かく)れているんだよ。」
 みんなは、不思議(ふしぎ)(そら)(ひかり)に、感心(かんしん)しましたけれど、その(ひかり)は、(さむ)く、なんとなくすごかったのであります。
 みんなは、(おそ)ろしくなって、また、(みず)(そこ)(しず)んでしまいました。
「お(かあ)さん、もう(はる)になったんでしょう。あんなに、(みず)(うえ)(あか)るいもの、(ぼく)、みんなと(うえ)へいったら、(そら)に、(あたま)()ちつけてしまった。」と、子供(こども)はいいました。
 すると、母親(ははおや)(わら)いました。
「まだ、(はる)にはならないのだよ。そして、(あたま)()ったのは、(そら)ではありません。(そら)は、それはそれは(たか)いところにあって、人間(にんげん)でも、そこまではいかれないのです。おまえの(あたま)()ったのは、(こおり)ですよ。あまり(さむ)いので、(みず)(おもて)(こお)っているのです。」といいました。
 子供(こども)は、これを()くと、がっかりしました。それから、どんなに、(はる)のくるのを()(どお)しく(おも)ったことでしょう。
 しかし、ついに、(はる)がやってきました。
 ある()(あたま)(うえ)が、いつになく、(あか)るく、青白(あおじろ)()られたのでした。
「とうとうおまえの()った、(はる)がきました。今夜(こんや)は、おまえに、お(つき)さまを()せてあげよう。やっと(こおり)()けたのです。」と、母親(ははおや)はいって、子供(こども)をつれて(みず)(おもて)()かびました。
 なんという、(ひろ)い、未知(みち)世界(せかい)が、(みず)(そと)にあったでしょう? 子供(こども)は、(たか)い、雲切(くもぎ)れのした(そら)()ました。(まる)い、やさしい、(つき)(ひかり)()ました。また、(とお)い、人間(にんげん)()んでいる(もり)や、(はやし)(かげ)などをながめました。そして、お(かあ)さんにつれられて、さざなみの()つ、(かわ)水面(すいめん)を、あちら、こちらと(およ)ぎまわったのでありました。
「これからは、一(にち)ましに、(みず)(なか)も、(あたた)かに(あか)るくなってきます。そして、昼間(ひるま)は、太陽(たいよう)が、(かわ)(めん)に、()(とも)したように、(あか)るく()らすでしょう。そうなると、おまえは、じっとしては、いられなくなりますよ。けれど、この(みず)(うえ)(ちか)()てごらんなさい。そこにはおまえの大好(だいす)きな(えさ)が、たくさんに(みず)(なか)()いています。そして、もし、おまえがそれを()べようものならたいへんだ。おまえは、(はり)()っかかって、人間(にんげん)のために、(みず)(うえ)()()げられて、やがて()んでしまうのです。だから、けっして、お(かあ)さんといっしょでなければ、(みず)(うえ)へは(あそ)びにこられませんよ。」と、母親(ははおや)は、いいました。
 子供(こども)は、なんという窮屈(きゅうくつ)なことだろうと(おも)いました。
「お(かあ)さん、そんなら、(わたし)たちは、どんなところで(あそ)んだらいいでしょうか。」と、子供(こども)は、母親(ははおや)にたずねました。
 母親(ははおや)は、子供(こども)()()いて、
人間(にんげん)が、(きし)では、()りをしていますから、(かわ)()(なか)(あそ)ぶのですよ。そして、なんでも、ほかのものに、()らえられそうになったら、できるだけの(ちから)()して、()ねるのです。」と、母親(ははおや)(おし)えました。
 一(にち)ましに、(みず)(なか)(あたた)かになりました。そして、もはや、陰気(いんき)ではなくなり、じっとしてはいられないように、(あか)るい、かがやかしい()がつづいたのです。
 子供(こども)は、お(かあ)さんの(ゆる)しなどを()けるのをもどかしく(おも)いました。ある()子供(こども)は、ひとりで、(かわ)()(なか)()て、(あそ)んでいました。だんだん、(うえ)へ、(うえ)へと、太陽(たいよう)のよく()たる(ほう)へ、(した)って(のぼ)りました。
 なんといううれしい(ひかり)でしょう。子供(こども)は、()ねたくなりました。(はし)りたくなりました。どこまでもいってしまいたくなりました。
 太陽(たいよう)(ひかり)のさすところ、(みず)(なか)は、うす(あお)く、平和(へいわ)でありました。子供(こども)は、うれしさを我慢(がまん)していることができなくなったのであります。
 二()、三()(みず)(おもて)(しろ)(はら)()して、()()がりました。
 ちょうど、このとき、どこにいて、(ねら)っていたものか、もう一()子供(こども)()()がったとき、一()白鳥(はくちょう)が、(たく)みに子供(こども)をくわえてしまいました。
 子供(こども)は、(おどろ)きました。そして、()をもだえました。しかし、なんのかいもなかったのであります。
「どうか、(わたし)(たす)けてください。お(かあ)さんが、()っています。」と、子供(こども)は、(みず)(うえ)を、自分(じぶん)をくわえて()んでいく、白鳥(はくちょう)()かって(たの)みました。
 白鳥(はくちょう)は、なんで、子供(こども)(うった)えを()きいれましょう。子供(こども)をくわえて、ある(おお)きな(いわ)(うえ)()まりました。そして、(うお)子供(こども)(いわ)(うえ)において、いいました。
「もう、おまえは(かえ)ることができない。(おれ)は、おまえを()らえると、すぐにひとのみにしてしまおうと(おも)ったが、おまえみたいな、(ちい)さなものをのんだからとて、なにも(はら)()しになるものでない。それよりも、(おれ)子供(こども)()べさしてやりたいために、ここまで()ってきたのだ。」と、(なさ)けなくいいました。
 子供(こども)は、お(かあ)さんのいうことをきかなかったことを、はじめて後悔(こうかい)しました。
 白鳥(はくちょう)は、(いわ)(うえ)で、自分(じぶん)子供(こども)()びました。すると、どこからか、(ちい)さな白鳥(はくちょう)が、()(ひかり)に、(ゆき)のように、(しろ)(つばさ)(かがや)かして、()んできました。
「おまえの大好(だいす)きな(うお)()ってきてやったよ。」と、白鳥(はくちょう)母親(ははおや)は、子供(こども)()かっていいました。
 (ちい)さな白鳥(はくちょう)は、(めずら)しそうに、かわいい、(くろ)(まる)()つきで、(うお)をながめていました。
「さあ、よくかんでお()べ。」と、母親(ははおや)は、小さな白鳥(はくちょう)に、注意(ちゅうい)をしていました。
 このとき、(うお)子供(こども)は、母親(ははおや)が、いつでも、(あぶ)なかったときには、できるだけの(ちから)()して、()ねろ! といったことを、(おも)()しました。(かれ)はふいに、(いのち)かぎりの(ちから)()して、()()がりました。
 (うお)子供(こども)は、(いわ)()()して、(みず)(なか)()ちました。(かれ)はしめたと(おも)うと、すぐに、(ふか)く、(ふか)く、(みず)(そこ)(しず)んでしまいました。
 白鳥(はくちょう)残念(ざんねん)がりました。そして、子供(こども)白鳥(はくちょう)に、注意(ちゅうい)()りないといって、しかりました。(ちい)さな白鳥(はくちょう)は、ただ(おどろ)いて、()をみはっているばかりでした。
 しかし、この経験(けいけん)によって、(うお)子供(こども)は、りこうになりました。もうけっして、うかつには()ねられないことを()りました。また、どういうときに、自分(じぶん)()ねなければならぬかということを(まな)びました。
 (ちい)さな白鳥(はくちょう)は、はじめて、これによって、敏捷(びんしょう)な、本性(ほんしょう)()ざめさせられたのです。こののち、どんなときに、油断(ゆだん)をしてはならないかということを()りました。
 (はる)もすぎて、(なつ)のころには、(うお)子供(こども)は、もう、(おお)きくなりました。やがて、お(かあ)さんになりました。(ちい)さな白鳥(はくちょう)も、(おお)きくなりました。そして、(うお)は、(みず)(なか)()ままに、(およ)ぎまわり、白鳥(はくちょう)は、(そら)を、自由(じゆう)()けていたのであります。

 

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