今後を童話作家に
小川未明
自由と純真な人間性と、そして空想的正義の世界にあこがれていた自分は、いつしかその芸術の上でも童話の方へ
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私の童話は、ただ子供に面白い感じを与えればいいというのではない。また、一篇の寓話で足れりとするわけではない。もっと広い世界にありとあらゆるものに美を求めたいという心と、また、それらがいかなる調和に置かれた時にのみ正しい存在であるかということを詩としたい願いからでありました。
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この意味において、私の書いて来た童話は、即ち従来の童話や世俗のいう童話とは多少異なった立場にいるといえます。むしろ大人に読んでもらった方がかえって意の存するところが分かると思いますが、あくまで童心の上にたち、即ち大人の見る世界ならざる空想の世界に成長すべき童話なるがゆえに、いわゆる小話ではなく、やはり童話といわるべきものでありましょう。
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多年私は小説と童話を書いたが、いま頭の中で二つを書き分ける苦しさを感じて来ました。「未明選集」六巻の配布も去る四月に完了したのを好機として、余の半生を専心わが特異な詩形のためにつくしたいと考えています。
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たとえいかなる形式であっても、芸術は次の時代のためのものでなければならない。そして、その意味からいっても童話の地位は、今後もっと高所におかれなければならないであろう。
童話文学の使命については、いずれ異日にゆずる。過去の体験と半生の作家生活に於いて、
「東京日日新聞」大正十五年五月十三日