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過ぎた春の記憶(1)

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示:過ぎた春の記憶小川未明一 正一(しょういち)は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の
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過ぎた春の記憶

小川未明

 


 正一(しょういち)は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供()多勢(おおぜい)でよくかくれんぼうをして遊んだ。
 晩方(ばんがた)になると、(あぶ)が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。大きな石がいくつも、足許(あしもと)に転がっている。其処(そこ)で、五六人のものが輪を造って、りゃんけんぽと口々に言って、石と(はさみ)と紙とで、(けん)をして負けたものが鬼となった。
 鬼は、手拭(てぬぐい)で堅く両眼(りょうがん)を閉められて、その石の間に立たされた。()して(あと)のものは、足音を立てずに何処(どこ)へか隠れてしまった。
「もういいか。」
と、鬼になったものが言うと、何処かでクスクスと、隠れた者の笑い声が聞えて、
「もういいぞ。」
と答えるものがあった。すると、鬼になったものは自分で、手を後方(うしろ)にやって縛ってやった手拭をはずした。而して、しばらく其処に立って、何処へ隠れたかということを考えて、その方へと行った。
 隠れているものは、みんな、鬼の来るのを怖れて見つかりはせぬかと、(すく)んでいた。鬼は眼をきょろきょろさせて、熊笹の繁った中や、土手の蔭などを一つ一つ(たず)ねて歩いた。而して、頭が、ちょっと出ていたり、着物の(はし)などがちょっと見えると、鬼は、安心してしまって、わざと気の付かないような風をして、
「何処へ行ったろう……何処に隠れているだろう、ここでもない。」
などと口で言って、わざと彼方(あちら)へ行くような振りをして見せて、横目でちょっと此方(こちら)の様子を睨んで見る。
 此方の、見付けられたと思ったものは、やっと心のうちで、これはいいあんばいに、助かったと思って、まだ胸をどきどきとして息の音を殺している。
 すると、彼方へ行きかけた鬼は、また此方へうかうかとやって来て、()ぐ、その頭の見えている者の間近に来て(とま)った。
 見つけられたと思ったものは、急に頭から冷水をかけられたような気分がして、穴があったら地の中へ隠れたいと思う刹那(せつな)
「見つかった!」
と鬼は叫んで、直様(すぐさま)、その者を捕えてしまった!

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