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すずめの巣

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示:すずめの巣小川未明 ある日(ひ)のことです。孝吉(こうきち)が、へやで雑誌(ざっし)を読(よ)んで、夢中(むちゅう)になっていると
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すずめの巣

小川未明


 ある()のことです。孝吉(こうきち)が、へやで雑誌(ざっし)()んで、夢中(むちゅう)になっていると、
孝吉(こうきち)は、いないか。」と、おじいさんの()ばれる(こえ)がしました。いつもとちがって、なんだか(おこ)っているようです。
「はてな、どうしたんだろう。なんにもしかられる(おぼ)えはないのに。」と、孝吉(こうきち)は、(おも)いました。
「はあい。」と、返事(へんじ)をして、おじいさんのそばへいきました。
「おまえは、(わたし)大事(だいじ)にしているらんの(はち)(たお)したろう。」と、眼鏡越(めがねご)しにじっと(かお)をにらんでおっしゃいました。孝吉(こうきち)は、()らないことですから、
「らんの(はち)?」と、(こた)えました。
()らないことがあるものか。おまえよりするものがない。」と、おじいさんは、あくまで孝吉(こうきち)がしたと(おも)っていられます。
「あれほど、植木台(うえきだい)(のぼ)ってはいけないというのに、いつもあすこへいって、おまえはいたずらをしている。」
 孝吉(こうきち)は、よく屋根(やね)植木(うえき)(なら)べてある(だい)(うえ)()ます。なぜなら、あすこはよく()()たってあたたかであるし、また遠方(えんぽう)景色(けしき)()えて、なんとなく気分(きぶん)()()れするからでした。けれど、おじいさんの大事(だいじ)にしている植木鉢(うえきばち)などに一()だってさわったことはありません
(ぼく)、ほんとうに()りませんよ。」
「おまえは、昨日(きのう)であったか、あすこへ()てなにかしていたろう。」と、おじいさんはおっしゃいました。
昨日(きのう)?」と、孝吉(こうきち)は、(かんが)えました。ああそうだった。もう(はる)がやってくるのだと(おも)って(みなみ)(ほう)(そら)をながめていると、うす桃色(ももいろ)(くも)がたなびいており、そして、その(した)(ほう)に、学校(がっこう)(おお)きなかしの()(あたま)が、こんもりとして()えたのでありました。
(しげ)ちゃん、ここから、学校(がっこう)のかしの()(あたま)()えるよ。」と、ちょうど(そと)(あそ)んでいた(しげ)ちゃんに()らせました。
「ほんとう?」
「だれが、うそをいうものか。」
(ぼく)(のぼ)って()ていい?」と、(しげ)ちゃんがいったから、孝吉(こうきち)は、おじいさんに、植木台(うえきだい)へお(とも)だちを()せてもいいかと()くと、おじいさんは、らんや、おもとが(なら)べてあるし、ぼたんのつぼみにでもさわるといけないからと、お(ゆる)しにならなかったのでした。
(しげ)ちゃん、(はら)っぱへいって、ボールを()げて(あそ)ぼうよ。」と、しかたがないから、(した)()いていったのです。
「ああ、そのほうがおもしろいや。(はや)(こう)ちゃん、いらっしゃいよ。」と、(しげ)ちゃんは、いいました。それから、二人(ふたり)は、(はら)っぱで、ボールを()げて(あそ)んだのでした。ただそれぎりであって、自分(じぶん)は、植木(うえき)になどさわらなかったのでした。
「きてごらん。」と、いわれるので、おじいさんについて屋根(やね)()てみると、なるほど、らんの(すな)(つち)がこぼれて、あたりにちらばっています。
「おかしいね。」と、孝吉(こうきち)も、(あたま)(かたむ)けました。お(かあ)さんでなし、お(ねえ)さんでなし、だれだろう?
「べつに、(はち)をころがしたのでもないな。」と、おじいさんは、らんの(はち)()()()げていられました。
「おまえが、(ぼう)でもふりまわして、その(さき)()たったのだろう。」
(ぼく)、なんで(ぼう)など()りまわすものか。」
「いや、だれでもいい。こんどしたら、おじいさんは(ゆる)さないよ。」と、(あたら)しい(つち)を、らんの(はち)()れていられました。
 翌朝(よくあさ)でした。まだうす(ぐら)いうちから、屋根(やね)ですずめがチュン、チュン、()いていました。
「そうだ、すずめかしらん。」と、孝吉(こうきち)は、(おも)ったので、そっと(とこ)から()()て、雨戸(あまど)()けて()たが、もうすずめの姿(すがた)は、()えませんでした。
 その()、だいぶたってからです。学校(がっこう)運動場(うんどうじょう)で、孝吉(こうきち)や、ほかの子供(こども)たちは、あの(おお)きなかしの()(した)()って、(はなし)をしていました。
「この()は、いくつくらい、ボールを()べたろうね。」
(ぼく)たちの、()げたのだけでも、三つくらい()べているよ。」
 枝葉(えだは)がしげっていて、この()(なか)()()まれたボールは、どこかに()っかかるとみえて、それぎり、(した)()ちてこなかったのでした。そして、孝吉(こうきち)が、屋根(やね)植木台(うえきだい)から()たのは、この()(いただき)でありました。それが、(はる)になって、()()わったらしく、だいぶ枝葉(えだは)(あいだ)がすいて()られたのでした。
「あっ、あすこに、ボールがのっかっている。」と、一人(ひとり)()すと、
「あすこにも、(くろ)いものがある。あれもそうらしいね。」と、またほかの一人(ひとり)が、いいました。
「よし、(ぼく)(のぼ)っていって()ろうや。」と、勇敢(ゆうかん)で、元気(げんき)で、木登(きのぼ)りの上手(じょうず)小田(おだ)がかしの()(のぼ)りはじめました。小田(おだ)は、(した)(ふと)(えだ)()ったとき、
「おい、だれか、(ぼう)()ってきてくれよ。」と、(さけ)びました。孝吉(こうきち)はすぐ(はし)っていって、小使(こづか)(しつ)のそばに()てかけてあった(たけ)ざおを()ってくると、小田(おだ)は、それを()(うえ)から()()って、
「いいかい。()とすよ。」といって、一つ、二つ、三つとボールを()としました。
「こんど、すずめの()()とすよ。」といいました。
「えっ、すずめの()?」と、みんなは、(うえ)()ていると小田(おだ)は、さおを()ばして、(いただき)についている(まる)いものを()()としました。
「わあっ。」と、いう(こえ)がしました。しかし、もう()すずめは、巣立(すだ)っていませんでした。
「なんだ、(みず)ごけが()てきたぞ。」
 孝吉(こうきち)は、おじいさんが、らんの根本(ねもと)()いておいた(みず)ごけだと、すぐわかりました。りこうなすずめはやわらかな(みず)ごけの(うえ)(たまご)()んで、(そだ)てたのでありました。はじめて、いつかのなぞが()けたけれど、孝吉(こうきち)は、すずめをにくむ()になれなかったのであります。

 

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