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戦友(2)

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示: 小西(こにし)は、うなずきました。岡田(おかだ)は、言葉(ことば)をつづけて、「おれも、出征(しゅっせい)する十日(とおか)ばか
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 小西(こにし)は、うなずきました。岡田(おかだ)は、言葉(ことば)をつづけて、
「おれも、出征(しゅっせい)する十日(とおか)ばかり(まえ)のことだった。平常(ふだん)からかわいがっていたくりの()がある。(あき)になっておはぐろ(いろ)(みの)るのを(たの)しみにしていたのに、このごろたくさんありが()がったり、()がったりして、とうとう()(えだ)をつくってしまった。それで、ありの()がれないようにと、綿(わた)(みき)()いたのだ。最初(さいしょ)はありのやつめ、綿(わた)(あし)をとられて、(こま)っていたが、そのうちに平気(へいき)でそれを()()えて(した)から()がっていくもの、(うえ)から、小粒(こつぶ)()きとおる蜜液(みつえき)()いて()りてくるもの、綿(わた)障害物(しょうがいぶつ)などほとんど問題(もんだい)でないのだ。おれは、しゃくにさわったから、熱湯(ねっとう)をわかして、かけてやったが、支那兵(しなへい)(おな)じくその(かず)無限(むげん)なのだ。そこはありのほうが勇敢(ゆうかん)で、(とも)(かばね)(うえ)()()えて、目的(もくてき)()かって前進(ぜんしん)をつづけるというふうで、この無抵抗(むていこう)抵抗(ていこう)には、こちらが、かえって根負(こんま)けをしてしまったよ。そのとき、(かん)じたんだ。この(ちい)さな(むし)ですらが、種族全体(しゅぞくぜんたい)幸福(こうふく)のためには、自分(じぶん)()をなんとも(おも)わないこと、その()(さま)()て、(おどろ)かざるを()なかったのだ。」
(まな)ぶべきことかもしれないな。」
「いや、(おお)いに(まな)ぶべきことだよ。()たまえ、こんなところにもありがいるじゃないか。ほかの生物(せいぶつ)生存競争(せいぞんきょうそう)(ほろ)びても、協力生活(きょうりょくせいかつ)をするありの種族(しゅぞく)だけは(さか)えるのだ、世界(せかい)じゅうどこでも、ありのいないところはないだろう。」
(ぼく)も、そんなことをなにかの(ほん)()(おぼ)えがある。」
(きみ)が、(はな)()(かんが)えていたときに、(ぼく)は、またありのごとく(かばね)()()えて、突進(とっしん)する自分(じぶん)姿(すがた)空想(くうそう)していたのだな。それで、(きみ)(さき)()んだら、おれは骨壺(こつつぼ)()っていってやるぞ。」
「どうか、そうしてくれ。」
 突如(とつじょ)として、このとき、(みみ)をつんざくような砲声(ほうせい)が、間近(まぢか)でしました。(みじか)く、また(なが)かった、二人(ふたり)(ゆめ)(やぶ)れたのです。
前進(ぜんしん)。」
 つづいて号令(ごうれい)が、かかった。

 終日(しゅうじつ)(かぜ)(おと)と、(あめ)(おと)と、まれに(とり)(こえ)しかしなかった平原(へいげん)が、たちまちの(あいだ)に、(くさ)()()こそぎにされて、寸々(すんずん)にちぎられ、(そら)()()ばされるような大事件(だいじけん)()()がりました。大地(だいち)をゆるがす砲車(ほうしゃ)のきしりと、ビュン、ビュンと()()なく空中(くうちゅう)()()くような銃弾(じゅうだん)(おと)と、あらしのごとくそばを()ぎて、いつしか(とお)ざかる馬蹄(ばてい)のひびきとで、平原(へいげん)静寂(せいじゃく)(やぶ)られ、そこに()えている(むらさき)(はな)(しろ)(はな)とは、(おも)わず、恐怖(きょうふ)にふるえながら、(かお)見合(みあ)ってささやいたのでした。
「なにが()こったのでしょう。」
暴風雨(ぼうふうう)がやってきたともちがいますね。」
 ここに()えている()や、(くさ)たちは、ほんとうに雷鳴(らいめい)と、暴風雨(ぼうふうう)よりほかに(おそ)ろしいものが、この宇宙(うちゅう)存在(そんざい)することを()らなかったのでした。
「やはり、暴風雨(ぼうふうう)でしょうね。いまにちょうが()んできたら()いてみましょう。」
 いつも、()(がた)()が、(なな)めにここへ()すころ、淡紅色(たんこうしょく)(ちい)さなちょうがどこからともなく()んできて、(はな)(うえ)()まるのでした。(はな)たちは、そのちょうのくるのを()っているのであるが、今日(きょう)にかぎってちょうは、どうしたのか、姿(すがた)()せなかったのです。まったく()()れかかると、平原(へいげん)は、(しず)けさをとりもどしました。けれど、四辺(あたり)には、なまぐさい(かぜ)()いて、(つき)(ひかり)は、()()びたように(あか)かったのでした。先刻(さっき)二人(ふたり)兵士(へいし)が、(はら)ばいになって、(はなし)をしていた場所(ばしょ)から、さらに前方(ぜんぽう)、三百メートルぐらい(へだ)たったところで、
小西(こにし)小西(こにし)……。」
 こう(やみ)(なか)(とも)()()びながら、戦友(せんゆう)(さが)しているのは、岡田上等兵(おかだじょうとうへい)でした。
 そのうち、(かれ)は、(あし)もとに(よこ)たわっている屍骸(しがい)につまずいて(あや)うく(たお)れかかったが、()みとどまって、(つき)(ひかり)でその(かお)をのぞくと、()たれたごとく、びっくりして、
「おい、小西(こにし)じゃないか、やはりやられたのか。」
 (かれ)は、ひざまずくと、戦友(せんゆう)(かばね)(ひざ)(うえ)()()げて、
「おまえのいったことは、やはり(むし)()らせだったな。とうとうやられたのか。しかしおれも、(おも)うぞんぶん(かたき)()って、すぐ(あと)からいくぞ。今夜(こんや)だけさびしいだろうが、一人(ひとり)でここにいてくれ。明日(あす)(あさ)は、かならず(むか)えにくるから。」
 岡田上等兵(おかだじょうとうへい)は、月光(げっこう)(した)()って、戦死(せんし)した(とも)()かって、合掌(がっしょう)しました。(かれ)は、(あし)もとに(しげ)っている草花(くさばな)手当(てあ)たりしだいに手折(たお)っては、武装(ぶそう)した戦友(せんゆう)(からだ)(うえ)にかけていました。そして、味方(みかた)陣営(じんえい)()かって、いきかけたのであるが、またなにを(おも)ったか、()(かえ)してきて、戦友(せんゆう)(うで)についている時計(とけい)のゆるんだねじを()きました。(かれ)は、指先(ゆびさき)(うご)かしながら、
「さびしくないように、小西(こにし)時計(とけい)のねじを()いておくぞ。今夜(こんや)一晩(ひとばん)、この(おと)をきいていてくれ……。」
 岡田上等兵(おかだじょうとうへい)は、なんといっても(こた)えがなく、(やす)らかに(ねむ)(とも)(かお)()つめて、(あつ)(なみだ)をふきながら、しばらく(わか)れを()しんでいました。

 その()(かれ)は、かつての約束(やくそく)(まも)って、戦友(せんゆう)骨壺(こつつぼ)()い、前線(ぜんせん)から、また前線(ぜんせん)へと()()え、(かわ)(わた)って、進撃(しんげき)をつづけているのでありました。

 

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