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僧(1)

时间: 2022-11-17    进入日语论坛
核心提示:僧小川未明 何処(どこ)からともなく一人の僧侶が、この村に入って来た。色の褪せた茶色の衣を着て、草鞋(わらじ)を穿(は)いてい
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小川未明


 何処(どこ)からともなく一人の僧侶が、この村に入って来た。色の褪せた茶色の衣を着て、草鞋(わらじ)穿()いていた。小さな(かね)を鳴らして、片手に黒塗の椀を(もっ)て、戸毎(こごと)、戸毎に立って、経を唱え托鉢をして歩いた。
 その僧は、物穏かな五十余りの年格好であった。静かな調子で経を唱える。伏目になって経を唱えている間も、何事をか深く考えている様子であった。眉毛は、白く長く延びていた。頭にはもはや、幾たびか、雨に当り、風に(さら)されて色づいた笠を被っている。短かい秋の日でも落付いて、戸毎、戸毎に立って家の者が挨拶をするまでは去らなかった。羽子(はね)の衰えた蜻蛉(とんぼ)は、赤く色づいた柿の葉に止っては立ち上り、また下りて来て止っている。磐の音は穏かに、風のない静かな昼に響いた。(じっ)と僧は立止って、お経を唱えている。
 この僧を見た人は、「またお坊さんが村へお(いで)なさった。」といった。家の(うち)からは、「お通り。」という声がする時もあった。その時には、僧は静かにその家の前を立去った。また或時は「出ない。」と、子供の声で怒鳴(どな)る時もあった。その時にも僧は静かにその家の前を立去った。また或時は、若者の声で「通れ。」と叱り付けるように言う時もあった。その時にも僧は、やはり穏かにその家の前を立去った。一軒の家を立去ればその隣の家へと行って、同じ穏かな調子で経文を唱えた。磐の音はゆるやかに響いた。何事をか考え、何事をか、その家に祈っているように、白い長い眉は、瞑黙した眼の上に見られた。(はたけ)には、赤く枯れたかぼちゃの蔓や、枯れ残った草の葉に、薄い、秋の日が照る時もあった。
 一時、この村には、隔った町から移って来た人などもあって、其等(それら)の人々の中には、病身勝(びょうしんがち)な者や、気の狂っている者もあった。秋も末になると寒い風が吹く。村の木立は、(いず)れも西北(にしきた)の風に、葉が振い落ちて、村の中が何となく(さび)れて来た。藁屋(わらや)の、今迄、圃の繁りや、木の枝に隠れて見えなかったのが、急に圃も、森も、裸となって、灰色の家根(やね)が現われ、その家の前で物を乾したり、働いている人の姿などが見えた。
 弱い日の光りが、雲に(にじ)んで、其等の景色をほんのりと明るく見せていたかと思うと、急に風が変って、雨が降って来る。晩方(ばんがた)にかけては、空は暗くなって、(あられ)や、(みぞれ)なども混って降って来た。圃の(うね)には白く溜って、枯れた草の上も白くなった。風は、益々(ますます)加わって、家々は、早く戸を閉めてしまう。この時、僧は何処へ去るであろうかと思わしめた。
 (あく)る日は、外は白くなっていた。空は不安に、雲が乱れていて、もはや雪の来る始めの日であることが分った。昼時分、やはり何処からともなく僧は村に入って来た。或長屋の角に立って、磐を鳴らして、霙混りの泥途(ぬかるみ)の中に立って、やはり眼を(つぶ)って経を唱えていた。
 家の中から、女房(かみさん)の声がして、
「さあ、(あげ)ますぜね。」といって、つづいてぱらぱらと穴銭の、黒い托鉢の中に落ちる音がした。やがて、女房(にょうぼう)の姿は、家の中に隠れてしまう。外は、寒い、荒風(あれかぜ)が吹いて、西北の方から黒雲が押し寄せて来た。僧は、落付いて、何時(いつ)までも立って、経を唱えていたが、やがてその家の前を去ったのである。
 斯様(こんな)風に、この僧は、毎日、毎日、村を歩き廻った。十日も続いたかと思うと、何時しか何処(いずこ)にか去って村へ来なくなった。村の人は何時からこの僧が来なくなったかを知る者がない。多分、他を廻っていて、この村へは来ないのだろうと思った。それから、一年経って来る時もあった。また二三年経って来る時もあった。
 誰も、この僧の年を取ったのを見分るものがなかった。何時、見る時も、(かつ)て、この村に来た時と同じい年頃に見受けた。そればかりでなく、身形(みなり)も余り変っていると思った者がない。或時は、秋から冬にかけて、僧はこの村に入って来た。或時は、春の初めに入って来た。その来る時は(きま)っていなかった。

 (しか)るに、或年のこと村に斯様噂が立った。
「あの僧侶(おしょうさま)は年を取らない。あの坊さんが来ると、きっとこの村で一人ずつ死ぬ。誰か死ぬ時に、あの坊さんが来る。」……
 誰も、この噂を信じたものがなかった。
 春の初め、何処からともなくこの僧が村に入って来た。その時、再びこの噂が持上った。この噂からして、村の或者は、来るたびに僧に銭をやったものがある。或者は、僧が来ると戸を閉めて留守を装っていた。十日(ばかり)すると僧は、何処にかこの村を去ってしまった。
 村の者は言い合った。
「坊さんは来なくなった。昨日も来なかった。一昨日(おとつい)も来なかった。」
「ちょうど今日で五日来ない。」
 この時分から、始めて僧の来たり、去ったりするのが村人の注意に上った。
 僧が去ってから、十日経たぬうちに村に事件が起った。村端(むらはずれ)に住んでいた年若い男の狂人(きちがい)と母親の二人が同時に死んだことだ。この二人はその筋から(わず)かばかりの給助を得て日を送って来た。村の人々もこの母親を(あわれ)んで物品を恵んだ。昔は、武士で殿様から(ろく)を貰っていたが、後になって公債の金で細く暮している内、狂人の父親は死に、息子は十五の時発狂して今日迄その(まま)となっている。何時しか公債は(つか)い果してしまった。母親の親戚は町にあるというが、来て顧みてくれる者もなかった。気狂(きちがい)は、時々、(おり)を破って外に逃げ出した。頭髪(かみのけ)垢染(あかじみ)て肌色の分らぬ程黒くなった顔に垂れ下って、肩の破れた衣物(きもの)を着て、縄の帯を占めて裸跣(はだし)で、口の中で何をか(つぶや)きながら、何処(いずこ)ともなく歩き廻り、外に遊んでいる子供を驚かした。
 雪のまだ降らない、秋の末の日であった。子供()の群は、寺の墓場に近い、大きな胡桃(くるみ)の木の下で遊んでいた。十五六を(かしら)に八九歳を下に鬼事(おにごと)をやっていると、彼方(あっち)から、
「オイ、英語を知っているか、(おれ)が教えてやる。」と(わめ)きながら、とぼとぼと来かかったものがあった。見ると、長い頭髪は肩に垂れて、手に細い杖を(なら)しながら、鋭い眼を見廻して来るのは、村で知らぬ者がない狂人であった。これ迄、幾度となく刃物を持出したということ、自分の母に斬り付けようとして、母が、戸の外に逃出したことを見たり、聞いたりして知っている子供()は声を上げて我れ先にと逃げ出した。中には(おく)れて泣き叫んだものがあった。
 この事が村に(ひろま)った時、四五人の者は、母を(あわ)れんで、この狂人の捜索に出た。その夜、寺の林で取り押えて再び檻を修繕して(うち)に入れたという。

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