月と海豹
小川未明
北方の海は銀色に
一
「どこへ行ったものだろう……
海豹はこう思っていたのでありました。寒い風は、しきりなしに吹いていました。子供を失った海豹は、何を見ても悲しくてなりませんでした。その時分は、青かった海の色が、いま銀色になっているのを見ても、また、
風は、ひゅう、ひゅうと音を立てて吹いていました。海豹はこの風に向かっても、
「どこかで、私のかわいい子供の姿をお見になりませんでしたか。」と、あわれな海豹は、声を曇らしてたずねました。
いままで、
「海豹さん、あなたはいなくなった子供のことを思って、毎日そこに、そうしてうずくまっていなさるのですか。私は、なんのためにいつまでも、あなたがじっとしていなさるのか分らなかったのです。私はいま雪と戦っているのでした。この海を雪が
「あなたは御親切な方です。いくらあなた達が、寒く冷たくても私は、ここに
「しかし海豹さん。秋頃、
その後で海豹は、悲しそうな声を立てて
海豹は、毎日風の便りを待っていました。しかし、一度約束をして行った風は、いくら待っても戻っては来なかったのでした。
「あの風はどうしたろう……。」
海豹は、こんどその風のことも気にかけずにはいられませんでした。
「もしもし、あなたはこれからどちらへお行きになるのですか……。」
と、海豹はこの時、自分の前を過ぎる風に向かって問いかけたのです。
「さあ、どこと言うことはできません。仲間が先へ行く後を、私達はついて行くばかりなのですから……。」と、その風は答えました。
「ずっと先へ行った風に、私は
「そんならあなたとお約束した風は、まだ
海は、