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月と海豹(2)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:こうしてじっとしているうちに、海豹はいつであったか、月が自分の体を照てらして、「さびしいか。」と言ってくれたことを思い出
(单词翻译:双击或拖选)
 
こうしてじっとしているうちに、海豹はいつであったか、月が自分の体をらして、「さびしいか。」と言ってくれたことを思い出しました。その時、自分は空を仰いで、
「さびしくて、さびしくて仕方がない!」
と言って、月にうったえたのでした。
すると、月は物思い顔にじっと自分を見ていたが、そのまま黒い雲のうしろに隠れてしまったことを、海豹は思い出したのであります。
さびしい海豹は毎日毎夜、氷山のいただきにうずくまって、我が子供のことを思い、風のたよりを待ち、また、月のことなどを思っていたのでありました。
月は、決して海豹のことを忘れはしませんでした。太陽が、にぎやかなまちをながめたり、花の咲く野原を楽しそうに見下ろして、旅をするのとちがって、月は、いつもさびしい町や暗い海を見ながら旅をつづけたのです。そして、あわれな人間の生活の有様や、うえいているあわれな獣物けだものなどの姿をながめたのであります。
子供をなくした親の海豹が、夜も眠らずに、氷山の上でかなしみながらえているのを月がながめた時、この世の中の、沢山たくさんかなしみに慣れてしまって、さまで感じなかった月も、心からかわいそうだと思いました。
あまりに、あたりの海は暗く、寒く、海豹の心を楽しませる何もなかったからです。
「さびしいか?」と言って、僅かに月は声をかけてやりましたが、海豹は悲しい胸のうちを、空を仰いで訴えたのでした。
しかし、月は自分の力で、それをうすることもできませんでした。
其の夜から、月はどうかして、このあわれな海豹をなぐさめてやりたいものと思いました。ある夜、月は灰色の海の上を見下ろしながら、あの海豹は、どうしたであろうと思い、空の路を急ぎつつあったのです。やはり風が寒く、雪は低く氷山をかすめて飛んでいました。
はたしてあわれな海豹は、其の夜も、氷山のいただきにうずくまっていました。
「さびしいか?」と月はやさしくたずねました。
この前よりも、海豹は幾分せて見えました。そして、悲しそうに空を仰いで、
「さびしい! まだ、私の子供は分りません。」と言って、月に訴えたのであります。
月は青白い顔で海豹を見ました。その光は、あわれな海豹の体を青白くいろどったのでした。
「私は世の中のどんなところも、見ないところはない。遠い国の面白い話をしてきかせようか?」と、月は海豹に言いました。
すると海豹は頭を振って、
「どうか、私の子供がどこにいるか、教えて下さい。見つけたら知らしてくれるといって約束した風は、まだ何んとも言ってきてくれません。世界中のことが分るなら、他のことはききたくありませんが、私の子供は、いまどこにうしているか教えて下さい。」と、海豹は月に向かって頼みました。
月はこの言葉をきくと、黙ってしまいました。何といって答えていいか分らなかったからです。それ程、世の中には海豹ばかりでなく、子供をなくしたり、さらわれたり、殺されたり、そのような悲しい事柄が、そこここにあって、一つ一つ覚えてはいられなかったからでした。
「この北海の上ばかりでも、幾疋いくひきの子供をなくした海豹がいるか知れない。しかし、お前は、子供にやさしいから一倍悲しんでいるのだ。そして、私は、それだからお前をかわいそうに思っている。そのうちに、お前をたのしませるものを持って来よう……」と月は言って、また雲のうしろに隠れました。
月は海豹にした約束を決して忘れませんでした。ある晩方ばんがた、南の方の野原で、若い男や女が、咲きみだれた花の中でふえを吹き、太鼓たいこを鳴らしておどっていました。月は、この有様を空の上から見たのであります。
これの男女は、いずれも牧人ぼくじんでした。もうこの地方は暖かで、みんなは畑や田に出て、たがやさなければなりませんでした。一日野良に出て働いて、夕暮になると、みんなは月の下でこうして踊り、その日のつかれわすれるのでありました。
男共は牛や羊を追って、月の下の霞んだ道を帰って行きました。女達は花の中で休んでいました。そして、そのうちに、花の香りに酔い、やわらかな風に吹かれて、うとうとと眠ってしまったものもありました。
この時、月は小さな太鼓が、草原の上に投げ出されてあるのを見て、これを、あわれな海豹に持って行ってやろうと思ったのです。
月が手を伸ばして太鼓を拾ったのを、誰も気付きませんでした。その夜、月は太鼓を負って、北の方へ旅をしました。
北の方の海は、依然いぜんとして銀色ぎんいろこおって、寒い風が吹いていました。そして海豹は、氷山の上にうずくまっていました。
「さあ約束のものを持って来た。」といって、月は太鼓を海豹に渡してやりました。
海豹は、その太鼓が気に入ったと見えます。月が、しばらく日のった後に、このあたりの海上を照らした時は、氷が解けはじめて、海豹の鳴らしている太鼓の音が、波の間からきこえました。
 
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