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天下一品(1)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:天下一品小川未明ある日ひのことであります。男おとこは空想くうそうにふけりました。「ほんとうに、毎日まいにち働はたらいても
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天下一品

小川未明


あるのことであります。おとこ空想くうそうにふけりました。
「ほんとうに、毎日まいにちはたらいても、つまらないはなしだ。大金持おおがねもちになれはしないし、また、これという安楽あんらくもされない。ばかばかしいことだ。よく世間せけんには、小判こばんはいった大瓶おおびんしたといううわさがあるが、おれも、なにかそんなようなものでもさなければ、大金持おおがねもちとはならないだろう。」と、そのおとこは、いろいろなことを、仰向あおむいてかんがえていました。
すると、たなのうえっていた、ふる仏像ぶつぞうまりました。むかしから、いえにあったので、こうしてたなのうえせておいたのです。仏壇ぶつだんなかには、あまりおおきすぎてはいらなかったからであります。
「あの仏像ぶつぞうが、きんであったら、たいへんな値打ねうちのものだろうが、どうせそんなものでないにはきまっている。それにけていて、どのみち、たいした代物しろものではない。しかし、あの仏像ぶつぞうがいいものであって、あたいたかれたら、どんなにしあわせだろう。おれは、たくさんの田地でんちうし、また、諸国しょこく見物けんぶつにもかけるし、りっぱな着物きものつくることができるだろう。」と、おとこは、くろくすすけた仏像ぶつぞうながらかんがえこんでいました。
いえそとには、もうすずめがきてひろっていていました。いつもなら、おとこは、くわをかついではたけなければならない時刻じこくでありましたが、なんだかはたらくということがばかばかしくなって、そのになれませんでした。
おとこは、がって、たなのうえからその仏像ぶつぞうろして、つくづくとながめていました。ほんとうに、ってこうしてながめるというようなことは、幾年いくねんあいだ、いままでになかったのです。また、ればるほど、それがいいもののようにもおもわれてきました。
もうこのにいない父親ちちおやが、あるとき、たびのものからこの仏像ぶつぞうったということをいていました。
「こりゃ、いいものではないかしらん。」と、かれは、ますますかんがえはじめました。
むらに、なんの職業しょくぎょうということもきまらずに、おくっているりこうものがありました。むら人々ひとびとは、そのひとをりこうものといっていました。このひとけば、役所やくしょとどけのことも、また書画しょが鑑定かんていも、ちょっとした法律上ほうりつじょうのこともわかりましたので、むらうち物識ものしりということになっていました。しかし、そのひとは、あまりいい生活せいかつをしていませんでした。地所じしょ売買ばいばいや、訴訟そしょう代理人だいりにんなどになってて、そんなことで報酬ほうしゅうて、その一のものはらしていたのですが、物識ものしりというとおっているので、このもののいったことは、むらでは、たいていほんとうにしていたのです。
「あの物識ものしりのところへっていって、てもらおうかしらん。どうせつまらないものでも、もともとだ、まん一いい代物しろものであったらおもわぬもうけものだ。人間にんげんうんというものは、どういうところにないともかぎらないから……。」と、おとこは、ほこりだらけの仏像ぶつぞうをひねくりながらかんがえていました。
やがて、おとこは、それをふろしきにつつみました。そして、これをかかえていえからかけました。らのあいだ細道ほそみちとおりますと、もうみんながせっせとはたらいています。自分じぶんも、今日きょうあたりいも肥料こえをやるのであったがと、おとこは、左右さゆうまわしながらあるいてゆきました。
物識ものしりは、いえに、つくねんとしてすわっていました。おとこが、仏像ぶつぞうをかかえてはいってきたので、物識ものしりは、きっとなにかの鑑定かんていだなとおもって、おとこ歓迎かんげいいたしました。
「さあ、ようこそおはやくおいでなさいました。」とてきて、ぴかぴかはげたあたまりたてていいました。
「ほかでもありませんが、これをひとつていただきたいとおもいまして。」と、おとこはいいました。
「なんでございますか。」と、りこうものは、つつみのうえからにらみました。
仏像ぶつぞうです。」
「これは、けっこうなもので。」と、物識ものしりは、さきから、おそれいったふうにいいました。
「そんないいものですといいのですが、どうせつまらないものです。」と、おとこはふろしきづつみをいて、くろくなった仏像ぶつぞうかれわたしました。
「なるほど。」と、うなずいて、りこうものは、その仏像ぶつぞうをいただいてから、しばらく、しみじみとっていました。
おとこは、そのあいだ、なんとなくむねがどきどきいたしました。おそろしい宣告せんこくけるような気持きもちがしたのです。
「どうですか?」と、おとこは、ついにたまりかねてききました。
「まことに、けっこうなしなです。」と、りこうものはただいったきりで、あくまで仏像ぶつぞう見入みいっていました。おとこは、その言葉ことばしんじられないような、へんな気持きもちがしました。
「つまらないものでしょうが……。」と、おとこあやぶみながらいいました。
天下てんかぴんやすくて千りょう値打ねうちはいです。」と、りこうもの感歎かんたんいたしました。
それが、いよいよほんとうだとると、おとこは、ゆめのような気持きもちがして、おどろいたというよりは、あたまがぼうとしました。
かれは、おもいきってたくさんな鑑定料かんていりょうして、仏像ぶつぞうかたくしっかりといだいて、もときたみちをもどりました。みんなは、いっしょうけんめいに、せっせと太陽たいようかがやしたはたらいていました。たかそらのあなたから、太陽たいようは、柔和にゅうわつきをして、はたらいている人々ひとびと見守みまもっているようでありました。しかし、おとこは、もういも肥料こえをやることなどは、まったくわすれてしまったように、てんで田圃たんぼうえなどにとどまりませんでした。
「あの物識ものしりのいうことに、まちがった、ためしがない。ことに、今日きょうはほんとうに感心かんしんしたようすでいった……やすくて、千りょう……まあ、なんという大金たいきんだろう。おれは、ゆめているのではあるまいかしらん。いや、たしかにゆめでない。千りょう……によって千五百りょうにもならないともかぎらない。そのかねおれは、どうして使つかったらいいだろう。」と、おとこは、もうでなく、からだじゅうがねつかされていました。
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