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天下一品(2)

时间: 2022-11-26    进入日语论坛
核心提示:物識ものしりが、「天下てんか一品ぴん」といった仏像ぶつぞうが、この村むらの中うちにあるといううわさが、たちまちあたりに広
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物識ものしりが、「天下てんかぴん」といった仏像ぶつぞうが、このむらうちにあるといううわさが、たちまちあたりにひろまりました。われも、われもといって、みんながおとこのところへ仏像ぶつぞうおがみにまいりました。
「ありがたそうなおかおをしていらっしゃる。」とか、「慈悲じひぶかいおをしていらっしゃる。」とか、または、「なんとなく神々こうごうしい。」とか、みんなが仏像ぶつぞうまえっていいました。
「これが千りょう値打ねうちのあるほとけさまですか。」と、なかには、おそるおそる近寄ちかよってながめるひとたちもあったのです。
すると、このむらに、大金持おおがねもちで、たくさんの小作人こさくにん使用しようして、また銀行ぎんこう預金よきんをして、なにをすることもなく、おくっている人間にんげんがありました。しいものは、なんでもいました。たいところへは、みんないっててきました。しかし、まだ、自分じぶんをなにひとつ満足まんぞくさせるものはありませんでした。かねはいくらあっても、それだけでは、このなかがおもしろくはありませんでした。どうか天下てんかぴんのものがほしい。だれもほかにっているものがないようなめずらしいものをれたい、と、ごろからおもっていました。
その金持かねもちのみみに、天下てんかぴん仏像ぶつぞうむらにあることがはいりました。しかも、目下めしたのもののいえにあるとくと、金持かねもちは、もはやじっとしてはいられませんでした。さっそく、そのおとこのところへかけてゆきました。
今日こんにちは。」と、金持かねもちは、おとこのところをたずねました。かつて、金持かねもちが、このおとこせまい、うすぐらいえたずねるようなことは、ありませんでした。
「だんなさまでございますか。」と、おとこはいって、金持かねもちをむかえました。
「ほかではないが、天下てんかぴんという仏像ぶつぞうせてもらいにきた。」と、金持かねもちはいいました。「いよいよおれうんいたぞ。」と、おとこは、こころうちでいいました。
仏像ぶつぞうというのは、あすこにまつってあるあれでございます。」と、おとこはいいました。
いつのまにか、たなのうえは、きれいになって、仏像ぶつぞうまえには、はなやお菓子かしなどが、ならべてあったのです。
金持かねもちは、それがどんな姿すがたであろうが、かまいません。かねちから天下てんかぴんれられるものなら、なんでもそれを自分じぶんのものにしたかったのです。
「あ、なるほど。」と、金持かねもちは、かるくうなずいて、それをってつくづくとていましたが、
「なかなかいいさくだ。よほどふるいものだ。わたしはまだこれよりもいいものをたことがあったが、このぞうもなかなかいい。けているのはしいものだ。わたしは、仏像ぶつぞうきなので、どうか一つれたいとおもっていたが、どうだろう、このぞうゆずってもらえまいか。」と、金持かねもちはいいました。
おとこは、はらなかでは、ほくほくよろこんでいましたが、くちでは、そういわなかった。
天下てんかぴんといいますので、やすくて千りょうだと、あのりこうものがいいました。なにしろ先祖せんぞ代々だいだい宝物ほうもつでございまして、なるたけりたくはないと、おもっています。」と、おとこは、さもさもらしくこたえました。
そうくと、金持かねもちは、ますますこの仏像ぶつぞうがほしくなりました。
「どうだ、千りょうわたしってはくれまいか。」と、金持かねもちはいいました。
おとこは、二千りょうも、もっとたかくもりたかったのです。
「まあ、かんがえてみましょう。」と、あいさつをしました。金持かねもちは、自分じぶんのほかには、千りょうして、この仏像ぶつぞうは、あまりあるまいとおもいましたので、そのは、それでかえったのであります。
隣村となりむらに、もう一人ひとり金持かねもちがありました。この金持かねもちも天下てんかぴん仏像ぶつぞうがぜひたくなりました。それで、わざわざおとこのもとへやってきました。
「どうか、仏像ぶつぞうおがましてもらいたい。」とたのみました。
「さあ、どうぞごらんくださいまし。仏像ぶつぞうはあれでございます。」と、おとこは、たなのうえ仏像ぶつぞうゆびさしました。
「あ、あの仏像ぶつぞうですかい。地金じがね黄金おうごんですか、なんでできていますか。」と、隣村となりむら金持かねもちはきました。
「さあ、地金じがねのことは、ぞんじませんが、鑑定かんていしてもらうと、やすくて千りょう値打ねうちがあるとのことです。先刻せんこくも、むらのだんなさまがえて、千りょうゆずってほしいといわれました。」と、おとこはなしました。
「じゃ、千りょうがあるのですかい。」
「さようでございます。」
「どうだ、わたしに、千三百りょうゆずってくださらんか。」と、隣村となりむら金持かねもちはたのみました。
おとこは、しめたものだと、こころうちおもいましたが、けっして、かおにはせませんでした。
「なにしろ、先祖代々せんぞだいだいからの宝物ほうもつですから、なるべくなら手放てばなしたくないとおもっています。よくかんがえてからご返事へんじもうしあげます。」と、おとここたえました。
隣村となりむら金持かねもちは、またくるといって、そのかえってしまいました。
あとで、おとこは、これは、またなんというしあわせが自分じぶんうえにわいてきたものかとかんがえると、あたまがなんとなくぼんやりしてしまいました。そして、それからというものは、仕事しごとにつかず、はたけへもませんでした。おとこは、くちなかで、千三百りょう……と、口癖くちぐせになって、かえして、いっていました。
地所じしょうこともできる。見物けんぶつかけることもできる。」と、ひとごとをして、けると、れるまで、ゆめるような気持きもちでいました。すると、そのとき、
「この田舎いなかでさえ、千りょうや、千三百りょうれる仏像ぶつぞうだ。まちへいってせたら、もっと、たかれないともかぎらない。」と、あるひとは、おとこかっていいました。
おとこも、なるほどとかんがえました。そこで、その仏像ぶつぞう大事だいじつつんで背中せなかにおぶって、まちかけてゆきました。途中とちゅうも、おとこは、ただ一つことしかかんがえていませんでした。そして、くちなかでは、千りょう……千三百りょう……といってあるいていました。
おとこは、ついにまちました。そこには、おおきな骨董店こっとうてんがありました。おとこは、まずそのみせへいってせようとおもいました。そして、店先みせさきって、なるほど、たくさんいろいろな仏像ぶつぞうや、彫刻ちょうこくがあるものだと、一ひととおかざられてあるものにとおしたのです。
「いくらいいものがあっても、おれ背中せなかにあるような、天下てんかぴんはここにもあるまい。」と、おとここころなかでいいながら、ながめていました。
すると、たなのなかほどのところに、寸分すんぶんちがわない、仏像ぶつぞういてありました。おとこは、これにまると、はっとおどろきました。そして、自分じぶんのせいでないかと、なお、おおきくけてじっとますと、まさしく、自分じぶんのおぶっている仏像ぶつぞうと、ふるさから、かたちまでちがわないばかりか、しかもけていず、完全かんぜん仏像ぶつぞうでありました。
天下てんかぴんが、ここにもあるぞ。」と、おとこはたまげてしまいました。そしていくらするものだろうとおもいましたから、おとこは、みせなかはいって、きわめて平気へいきよそおって、その仏像ぶつぞうあたいいてみました。
「あのたなのなかほどのふる仏像ぶつぞうですか、おまけして、五りょうでよろしゅうございます。」と、番頭ばんとうは、こたえました。
「五りょう?」と、おとこはいって、みみうたがいました。千りょう……千三百りょう……が、五りょう? きっとこの番頭ばんとう盲目めくらなのだ。おれは、一つをむら大尽だいじんに千りょうり、一つを隣村となりむら金持かねもちに、千三百りょうってやろう。
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