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殿さまの茶わん(1)

时间: 2022-11-28    进入日语论坛
核心提示:殿さまの茶わん小川未明昔むかし、ある国くにに有名ゆうめいな陶器師とうきしがありました。代々だいだい陶器とうきを焼やいて、
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殿さまの茶わん

小川未明


むかし、あるくに有名ゆうめい陶器師とうきしがありました。代々だいだい陶器とうきいて、そのうちしなといえば、とお他国たこくにまでひびいていたのであります。代々だいだい主人しゅじんは、やまからつち吟味ぎんみいたしました。また、いいかきをやといました。また、たくさんの職人しょくにんやといました。
びんや、ちゃわんや、さらや、いろいろのものをつくりました。旅人たびびとは、そのくにはいりますと、いずれも、この陶器店とうきてんをたずねぬほどのものはなかったのです。そして、さっそく、そのみせにまいりました。
「ああ、なんというりっぱなさらだろう。また、ちゃわんだろう……。」といって、それを感嘆かんたんいたしました。
「これを土産みやげっていこう。」と、旅人たびびとは、いずれも、びんか、さらか、ちゃわんをってゆくのでありました。そして、このみせ陶器とうきは、ふねせられて他国たこくへもゆきました。
あるのことでございます。身分みぶんたかいお役人やくにんが、店頭てんとうにおえになりました。お役人やくにん主人しゅじんされて、陶器とうき子細しさいられまして、
「なるほど、上手じょうずいてあるとみえて、いずれもかるく、しかも手際てぎわよく薄手うすでにできている。これならば、こちらに命令めいれいをしてもさしつかえあるまい。じつは、殿とのさまのご使用しようあそばされるちゃわんを、ねんねんれてつくってもらいたい。それがために出向でむいたのだ。」と、お役人やくにんもうされました。
陶器店とうきてん主人しゅじんは、正直しょうじきおとこでありまして、おそりました。
「できるだけねんねんれてつくります。まことにこのうえ名誉めいよはございませんしだいです。」といって、おれいもうしあげました。
役人やくにんかえりました。そのあとで、主人しゅじんみせのもの全部ぜんぶあつめて、ことのしだいをげ、
殿とのさまのおちゃわんをつくるようにめいぜられるなんて、こんな名誉めいよのことはない。おまえがたもせいいっぱいに、これまでにない上等じょうとう品物しなものつくってくれなければならない。かるい、薄手うすでのがいいとお役人やくにんさまももうされたが、陶器とうきはそれがほんとうなんだ。」と、主人しゅじんは、いろいろのことを注意ちゅういしました。
それから幾日いくにちかかかって、殿とのさまのおちゃわんができあがりました。また、いつかのお役人やくにんが、店頭てんとうへきました。
殿とのさまのちゃわんは、まだできないか。」と、役人やくにんはいいました。
今日きょうにも、ってがろうとおもっていたのでございます。たびたびおかけをねがって、まことに恐縮きょうしゅくいたりにぞんじます。」と、主人しゅじんはいいました。
「さだめし、かるく、薄手うすでにできたであろう。」と、役人やくにんはいいました。
「これでございます。」と、主人しゅじんは、役人やくにんにおにかけました。
それは、かるい、薄手うすで上等じょうとうちゃわんでありました。ちゃわんのしろで、すきとおるようでございました。そして、それに殿とのさまの御紋ごもんがついていました。
「なるほど、これは上等じょうとうしなだ。なかなかいいおとがする。」といって、お役人やくにんは、ちゃわんをうえせて、つめではじいてていました。
「もう、これよりかるい、薄手うすでにはできないのでございます。」と、主人しゅじんは、うやうやしくあたまげて役人やくにんもうしました。
役人やくにんは、うなずいて、さっそく、そのちゃわんを御殿ごてん持参じさんするようにもうしつけてかえられました。
主人しゅじんは、羽織はおり・はかまをけて、ちゃわんをりっぱなはこなかおさめて、それをかかえて参上さんじょういたしました。
世間せけんには、このまち有名ゆうめい陶器店とうきてんが、今度こんど殿とのさまのおちゃわんを、ねんねんれてつくったという評判ひょうばんこったのであります。
役人やくにんは、殿とのさまのまえに、ちゃわんをささげて、ってまいりました。
「これは、このくにでの有名ゅうめい陶器師とうきしが、ねんねんれてつくった殿とのさまのおちゃわんでございます。できるだけかるく、薄手うすでつくりました。おすか、いかがでございますか。」ともうしあげました。
殿とのさまは、ちゃわんをりあげてごらんなさると、なるほどかるい、薄手うすでちゃわんでございました。ちょうどっているかいないか、のつかないほどでございました。
ちゃわんの善悪ぜんあくは、なんできめるのだ。」と、殿とのさまはもうされました。
「すべて陶器とうきは、かるい、薄手うすでのをたっとびます。ちゃわんのおもい、厚手あつでのは、まことにひんのないものでございます。」と、役人やくにんはおこたえしました。
殿とのさまは、だまってうなずかれました。そして、そのから、殿とのさまの食膳しょくぜんには、そのちゃわんがそなえられたのであります。
殿とのさまは、忍耐強にんたいづよいおかたでありましたから、くるしいこともけっして、くちしてもうされませんでした。そして、一こくをつかさどっていられるかたでありましたから、すこしぐらいのことにはおどろきはなされませんでした。
今度こんどあたらしく、薄手うすでちゃわんががってからというものは、三のお食事しょくじ殿とのさまは、いつもくようなあつさを、かおにもされずに我慢がまんをなされました。
「いい陶器とうきというものは、こんなくるしみをえなければ、愛玩あいがんができないものか。」と、殿とのさまはうたがわれたこともあります。また、あるときは、
「いやそうでない。家来けらいどもが、毎日まいにちおれ苦痛くつうわすれてはならないという、忠義ちゅうぎこころからあつさをこらえさせるのであろう。」とおもわれたこともあります
「いや、そうでない。みんながおれつよいものだとしんじているので、こんなことは問題もんだいとしないのだろう。」とおもわれたこともありました。
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