五
白壁造の家は夢のように流れの淵に並んでいた。水は崖の下に
彼は、この白い静かな町の中をあてなく歩く小犬のように、白い乾いた往来の上に、みすぼらしい影を落してさ迷った。而して巫女の家を見舞おうと思った。
或日、遂にその旧家を見出すことが出来た。町から程隔った小高かな処にある。彼は、月の冴えた晩にその家の門に辿り着いた。
もはや、話に聞いた彼の利巧な老人は死んでしまったという。幾年前に死んでしまったのか分らない。
最初Xの町の人に聞くと、「幽霊
彼は、百人の普通の人に愛せられなくても、異常な力を持った悪魔に可愛がられたならば、もはや、自身はこの世に於て孤独な人でない。
微かな細い道は、奥の方へ
独りとぼとぼと月の光りを頼りに
小鳥も啼かなければ、風の吹く音もしなかった。全く昔の建物は
小鳥の巣の下に立って物を言ったり、蛙を掌に載せて笑ったりした娘の姿は、この寂然とした広い家敷の中には見えなかったのである。
彼は、礎石の上に腰をかけてコオロギの啼声を聞いていた。而して荒れ果てた昔の秘密の園を眺めた。
冬が近づいたと見えて月の光りが白くなった。