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火を点ず(1)

时间: 2022-12-07    进入日语论坛
核心提示:火を点ず小川未明村むらへ石油せきゆを売うりにくる男おとこがありました。髪かみの黒くろい蓬々ぼうぼうとした、脊せいのあまり
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火を点ず

小川未明


むら石油せきゆりにくるおとこがありました。かみくろ蓬々ぼうぼうとした、せいのあまりたかくない、いろしろおとこで、石油せきゆのかんを、てんびんぼう両端りょうはしに一つずつけて、それをかついでやってくるのでした。
おとこは、勤勉者きんべんものでありました。毎日まいにちかさずに、時間じかんおなじように、ひるすこしぎるとむらはいってきて、一けん、一けん、「今日きょうは、石油せきゆはいりませんか?」と、いってあるくのでした。
そのおとこは、ただ忠実ちゅうじつ仕事しごとのことばかりかんがえているようでした。それには、なにか、目的もくてきがあったのかもしれない。たとえば、かねがいくらたまったら、みせをりっぱにしようかとか、また、はやく幾何いくらかになれば幸福さいわいだとむねうちえがいていたのかもしれない。それとも、もっとさしせまったそののことをえがえていたのか?
あまりくちをきかない、このおとこかおたばかりでは、こころうちることができなかったけれど、人間にんげんというものは、なにか目的もくてきがなければ、そういうふうに勤勉きんべんになれるものではなかったのです。
もっとも、おとこには、わかよめがありました。としをとった母親ははおやもあったようです。ちいさなみせだけで、石油せきゆるのでは、らしがたたなかったのかもしれない。
しかし、このむらには、もっともっと貧乏びんぼうひとたちがんでいました。屋根やねひくい、くらちいさないえ幾軒いくけんもあって、いえなかにはたけぐしをつくったり、つまようじをけずったり、なかには状袋じょうぶくろをはったりしているおとこも、おんなもあった。それでなければ、一にちそとはたけはたらいているようなひとたちでありました。
かれらは、ものをいかけられても、やすめて、それに返答へんとうするだけのときすらおしんでいましたから、あたまだけをそとほうけて、
「まだ、今日きょうはあったようだ。」とかなんとく、その石油せきゆりにいったのでした。
「また、おねがいいたします。」と、おとこは、軒下のきしたってとなりいえほうあるいていくのでした。
そのあとで、いえなかでは仕事しごとをしながら、家族かぞくのものが、こんなうわさをしています。
りにくるのと、いってうのとはたいへんなちがいだ。りにくるのは、きっちり一ごうしかはからないが、いってうとずっとたくさんくれる。これからよるながくなるから、夜業よなべをするのにすこしでもおおいほうがありがたい、晩方ばんがたちょっといってえばいいのだ。」と、母親ははおやがいうと、
「ほんとうに、きっちり一ごうしかはからない、なんだかりないようなときもある。きたのをうとランプの七ぶんめぐらいしかないが、いってうとちょうどくちもとまでありますよ。」と、むすめ返答へんとうした。
これらの人々ひとびとは、こうして、なにか問題もんだいこるとたがいにくちをききあうが、そうでもなければ一けんいえでも、めったにはなしすらせずにしたいて指先ゆびさきをみつめながら仕事しごとをしているのでした。あたまなかでは、多分たぶんむすめはさまざまな空想くうそうにふけりながら、また母親ははおやべつのことをあたまえがいて……。
ちょうどそのとき、隣家りんか軒下のきしたでは、おとこかたからてんびんぼうろして、四十前後ぜんご女房にょうぼうよごれたちいさな石油せきゆれるブリキのかんをげててきました。
まど格子こうしには、あかいとうがらしがとおばかりひとふさにしてむすびつけてあります。そこには、よくたるのでした。おんな皮膚ひふいろあおざめてたるんでいた、そして、水腫性すいしゅせい症状しょうじょうがあるらしくふとって、ことに下腹したはらていました。
おとこは、こちらの石油せきゆかんのふたをりました。青々あおあおとした、強烈きょうれつ香気こうき発散はっさんする液体えきたい半分はんぶんほどもかんのなかになみなみとしていました。五しゃくのますと石油せきゆをくむしゃくがあって、おとこはそのしゃくあおれる液体えきたいなかむせつな、七つ八つの少年しょうねんが、熱心ねっしんにかんのなかをのぞいて、その強烈きょうれつ香気こうきをかいでいるのでした。
「どいておくれ。」と、おとこは、ぶあいそうにいった。少年しょうねんは、一退いて、ほそくして、雲切くもぎれのしたあきそらあおいでいました。
「また、あぶらがったんですね。」と、女房にょうぼうはいいました。
「また、がりました。」と、おとここたえながら、五しゃくのますにほとんど過不足かふそくなくたいらかに石油せきゆたして漏斗じょうごにわけました。そして、もう一ぱいれるために、また、杓子しゃくし石油せきゆれました。
「こんなに石油せきゆたかくなっては、よるもうっかりながきていられない。」と、女房にょうぼうはいいました。
その言葉ことば調子ちょうしには、こうがったら、どんなに石油せきゆるものはもうかるだろうというようにかれたのです。
卸問屋おろしとんやのほうでげるのですから、こうしてわたしどもは、やはりもうからないのです。」
無口むくちおとこは、いいわけをするように、ただこれだけいいました。
女房にょうぼうは、こういったら、半杓はんしゃくぐらい最後さいごに、おまけをれてくれるだろうかと、をさらにして、じっとていたのですが、おとこは、やはり巧妙こうみょうとでもいうように、過不足かふそくなくたいらかにますにれて漏斗じょうごうつすと、それぎりでした。
おんなは、むしろおとこはや漏斗じょうごものくちからいたので、青味あおみんだ、うつくしいしずくがまだのこっていて、かえってますにうつされたのだけそんをしたようなすらこったのです。
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