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» 正文
火を点ず(2)
时间:
2022-12-07
进入日语论坛
核心提示:「ありがとうございます。」といって、男おとこは、その家いえの前まえから立たち去さりました。「売うりにくるのを買かうもので
(单词翻译:双击或拖选)
「ありがとうございます。」といって、
男
おとこ
は、その
家
いえ
の
前
まえ
から
立
た
ち
去
さ
りました。
「
売
う
りにくるのを
買
か
うものでない。これからやはり、
店
みせ
へいって
買
か
ったほうが
得
とく
だ。」と、
女房
にょうぼう
は、
独
ひと
り
言
ごと
をしながら
家
いえ
へ
入
はい
りました。
窓
まど
の
格子
こうし
には、
火
ひ
の
燃
も
えついたように、このとき、とうがらしを
日
ひ
が
照
て
らしていました。
先刻
さっき
の
男
おとこ
の
子
こ
が、
石油売
せきゆう
りの
後
あと
を
追
お
っていきました。
「
僕
ぼく
は
石油
せきゆ
のにおいが
大
だい
すきだよ。」
その
子供
こども
は、
友
とも
だちに
出
で
あうとそういっていました。
「かきを一つあげようか。」
友
とも
だちは、
懐
ふところ
からかきを
出
だ
して、
少年
しょうねん
に
渡
わた
しました。
二人
ふたり
の
子供
こども
は、
乾
かわ
いた
往来
おうらい
の
上
うえ
で、
黄色
きいろ
な
果実
かじつ
を
持
も
って
楽
たの
しそうに
遊
あそ
んでいました。
その
間
あいだ
に、
石油売
せきゆう
りは、
圃
はたけ
の
間
あいだ
を
通
とお
って、あちらへいってしまった。
日暮
ひぐ
れ
方
がた
すこし
前
まえ
に、このかさをかぶった、わらじをはいてきゃはんを
着
つ
けた
労働者
ろうどうしゃ
は、
村
むら
をまわりつくして
町
まち
に
出
で
ようとして、ある
神社
じんじゃ
のそばにさしかかり、そこに
荷
に
を
下
お
ろして、しばらく
休
やす
んでいました。
境内
けいだい
の
木々
きぎ
は
黄色
きろ
く
色
いろ
づいていました。
「
寒
さむ
くなった。
今年
ことし
は
夜着
よぎ
を
造
つく
らねばなるまい。」
無口
むくち
の
若
わか
い
男
おとこ
は、あたりのさびしくなった
景色
けしき
を
見
み
まわしながら
独
ひと
り
語
ごと
をしていました。
やがて、
彼
かれ
は、
家
いえ
に
帰
かえ
って、
日暮
ひぐ
れ
方
がた
に
近
ちか
づいて
店頭
みせさき
へくる
客
きゃく
に、
石油
せきゆ
を
量
はか
って
渡
わた
していたのです。
「
歩
ある
いていって
売
う
るときはおまけができないが、
店
みせ
にくる
人
ひと
には、すこしずつおまけをしよう。」
これが
彼
かれ
の
心
こころ
の
掟
おきて
となっていました。すこしでも
量
りょう
の
多
おお
いのを
喜
よろこ
んだ、このあたりの
貧
まず
しい
生活
せいかつ
をしている
人々
ひとびと
は、わざわざ
彼
かれ
の
店
みせ
へやってきました。その
中
なか
には、
老人
ろうじん
もあれば、
若
わか
い
女
おんな
などもあったが、
日
ひ
が
暮
く
れても、まだ
仕事
しごと
の
手
て
を
放
はな
さない、ほんとうに一
刻
こく
をも
争
あらそ
うその
日
ひ
かせぎの
人々
ひとびと
は、
子供
こども
を
使
つか
いにやるのでした。
この
夜
よる
、
幾
いく
百
万
まん
の
燭光
しょっこう
を
消費
しょうひ
する
都会
とかい
の
明
あか
るい
夜
よる
の
光景
こうけい
などは、この
土地
とち
に
住
す
む
人々
ひとびと
のほとんどその
話
はなし
を
聞
き
いても
理解
りかい
することのできないことであったのです。
男
おとこ
は、
店頭
みせさき
にきた、
汚
きたな
らしいふうをした
子供
こども
を
見
み
て、どこかで
見
み
たことのある
子供
こども
だと
思
おも
いました。しかし、
彼
かれ
は、
昼間
ひるま
石油
せきゆ
のかんをのぞいた
子供
こども
だということは
思
おも
いに
浮
う
かばなかったのです。
子供
こども
は、一
合
ごう
の
石油
せきゆ
を
買
か
って、
銭
ぜに
をそばに
重
かさ
ねてあった
空
あ
き
箱
ばこ
の
上
うえ
にのせて、
小
ちい
さな
姿
すがた
は
店頭
みせさき
から
消
き
えました。
男
おとこ
は、うす
暗
ぐら
くなった
光線
こうせん
のうえで、
箱
はこ
の
上
うえ
にのせてあった
銭
ぜに
を
手
て
に
取
と
り
上
あ
げて、しらべて
見
み
ました。
「なに、これは五
厘
りん
銭
せん
じゃねえか、五
厘
りん
ごまかそうと
思
おも
いやがって……。」と、いまいましそうにいって、
顔
かお
の
色
いろ
を
変
か
えた。
「おまけをしたうえに、ごまかされて、一
合
ごう
の
頭
あたま
でいくらもうかるけえ。」
無口
むくち
な、おとなしそうな
男
おとこ
に
似合
にあ
わず、
急
きゅう
に
怖
おそ
ろしいけんまくとなりました。
男
おとこ
は、すぐさま
駈
か
け
出
だ
していきました。
「きっと、
貧乏村
びんぼうむら
の
子供
こども
にちげえない。」
彼
かれ
は、
村
むら
の
方
ほう
に
向
む
かって、
恐
おそ
ろしい
勢
いきお
いで
走
はし
りました。
小
ちい
さな
子供
こども
の、
油
あぶら
びんをぶらさげて、
短
みじか
い
着物
きもの
のすそから
出
で
た二
本
ほん
の
足
あし
に、ぞうりをはいていく
後
うし
ろ
姿
すがた
を
見
み
つけると、
「おい、
餓鬼
がき
め、
待
ま
て!」と、
彼
かれ
は、どなるとほとんど
同時
どうじ
に、
子供
こども
の
後
うし
ろえりを
引
ひ
っ
捕
つか
まえました。
もし、だれか
村
むら
のものがこの
有
あ
り
様
さま
を
見
み
たら、あの
平常
ふだん
口
くち
もきかない
男
おとこ
に、こんな
残忍
ざんにん
なことができるかと、かつて
想像
そうぞう
のできなかっただけびっくりするでしょう。
「五
厘
りん
ごまかそうなんて、ふらちなやつだ。」
「五
厘
りん
出
だ
せ、それでなけりゃ、そのびんをよこせ。」
少年
しょうねん
は、
黒
くろ
い
大
おお
きな
目
め
をみはって、
顔
かお
を
真
ま
っ
赤
か
にして、なにもいえないで
震
ふる
えています。
「さあ、
石油
せきゆ
のびんを
渡
わた
せ。」と、
男
おとこ
は、
少年
しょうねん
の
手
て
から
引
ひ
ったくるとたんになわが
切
き
れて、びんは
地上
ちじょう
に
落
お
ちて、
倒
たお
れると
石油
せきゆ
は
惜
お
しげもなく、
口
くち
から
雲母
きらら
のごとく
流
なが
れ
出
で
ました。
「てめえみたいなやつは、
大
おお
きくなるとどろぼうになるんだ。」
男
おとこ
は、
小
ちい
さな
手
て
で
両眼
りょうめ
をこすって
泣
な
き
出
だ
した
少年
しょうねん
を
後目
しりめ
にかけて、ののしると
町
まち
の
方
ほう
へ
引
ひ
き
返
かえ
してしまいました。
神社
じんじゃ
の
境内
けいだい
にあった、いちょうの
葉
は
は、
黄色
きいろ
く、ひらひらと、すでにうす
暗
ぐら
くなった
地
ち
の
上
うえ
に
吸
す
い
込
こ
まれるように
散
ち
っていました。
少年
しょうねん
は、いつまでも
泣
な
いていたが、
急
きゅう
になきやんだ。そして、
足
あし
もとに
倒
たお
れているびんを
拾
ひろ
って、一
目
もく
散
さん
に
村
むら
の
方
ほう
へ
走
はし
りだした。
「
俺
おれ
をどろぼうといったぞ。」と、
口走
くちばし
りながら。
町
まち
に、
燈火
あかり
のつくころでした。みすぼらしいようすをした
老婆
ろうば
が、
石油屋
せきゆや
の
入
い
り
口
ぐち
に
立
た
って、
「さっき、
子供
こども
が、五
厘
りん
足
た
りなかったので、どろぼうだといってしかられたと
泣
な
いてきたが、
私
わたし
が
銭
ぜに
を
渡
わた
したときに
目
め
が
悪
わる
いものでまちがったのだ。まちがいということは、だれにでもあることでな……。」と、
老婆
ろうば
は、
目
め
をしばたたきながら、
主人
しゅじん
にいった。
「いえ、五
厘
りん
足
た
りないと
追
お
いかけていっていうと、たしかに
置
お
いてきたといいなさるから、うそをいうことは、どろぼうのはじまりだといったのです。」と、
平常
ふだん
無口
むくち
の
男
おとこ
は
白々
しらじら
しく
答
こた
えた。
翌日
よくじつ
の
暮
く
れ
方
がた
のことです。
男
おとこ
が、
客
きゃく
のために
石油
せきゆ
を
量
はか
っていると、
不意
ふい
に
目先
めさき
で
火
ひ
をすったものがある。はっと
心臓
しんぞう
を
刺
さ
されたようにびっくりしたときは、
非常
ひじょう
な
爆音
ばくおん
とともに、もう
火
ひ
は
彼
かれ
を
包
つつ
んでいました。
少年
しょうねん
の
不思議
ふしぎ
な
犯罪
はんざい
として、この
話
はなし
は、いまだにこの
町
まち
に
残
のこ
っています。
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