少しおそい朝ごはんを食べると、大会が間近となった水泳部の練習にそなえて、道ぐのじゅ
んびをする。夏の暑さには、キンキンにひえたお茶がぜっ対にひつよう。氷を入れると、お茶
を水とうにながしこむ。じゅんびはととのった。いやその前に弟と妹の世話もわすれずに…。
そう。今日はいつもとはちがう。ふだんのぼくはこんなことはしない。と言うのも、今朝
は、お父さんもお母さんもいない。きのうの夜、お母さんのぐ合がわるくなって、きゅうきゅ
うのびょういんに行っているからだ。
「だいじょうぶ。すぐに帰ってくるから。ばあちゃんが来てくれるからね。」
そう言って、お父さんとお母さんはびょういんに向かった。お母さんのことが心ぱいな気持
ちも、自分たちだけでだいじょうぶなのかというふあんもあったけど、ぼくは「自分がなん
とかしなきゃ。」という気持ちにすっかり切りかえていた。
そして、じゅんびをしながら、いろんなことを思い出そうとしていた。部活が終わって
帰ったら、いつもお母さんはせんたくを終わらせていたな。そうじをして、昼ごはんの
じゅんびをして、ぼくたちが食べ終わると、弟や妹をお出かけにつれて行ってた。まずは、そこま
じゅんびをして、ぼくたちが食べ終わると、弟や妹をお出かけにつれて行ってた。まずは、そこま
でだ。さあ、何からしよう。ぼくに何ができるんだろう。あれこれ思い出しながらお母さん
のことをいろいろ考えた。「夏休みに入って、大へんだったんだな。」「ぼくたちのためにむ
理してたのかな。」ぼくの中を、いろんな思いがかけめぐる。いつもぼくたちのためにはたら
いてくれているお母さん。毎日ぼくたちのリクエストを聞いて、食事のメニューを考えてく
れる。帰るとげんかんで出むかえてくれて、学校に行く時は、ぼくを元気づけようと声をか
け、見えなくなるまで手をふってくれる。毎日くり返される同じこと。あたりまえにやって
くる毎日、ぼくの周りにはあたりまえのようにみんながいる。でも、それは、本当はあたりま
えじゃない。ぼくはお母さんやお父さん、そして弟と妹の家ぞくみんなに支えられている。
そのあたりまえがどれほどすばらしいことなのか、この夏、ぼくは気づいた。そして、そんな
みんなの思いを大切にしなきゃいけないということも。
部活に出かけようとした、ちょうどその時お父さんの車が帰ってきた。お母さんは、やっ
ぱりしんどそうだったけど、点てきをして少し顔色もよくなり、
「だいじょうぶよ。心ぱいさせたね。」
とわらって言った。
「行ってきます。」
いつもと同じ朝。ぼくは、いつもより大きな声で部活に出かけた。