大きな体型に白いひげ、小さい頃迷子になっても遠くからす
ぐに見つけることができた。そのたっぷりとしたお腹の上に
頭をのせると、トトロの上で寝ているようで、温かく穏やかな
気持ちになり、すぐにぼくは夢の中だった。
やさしく、どんな時でも受け入れてくれる存在で、お母さん
に怒られるとすぐにジジの元に逃げ込んでしまう。嵐の中、大
木の穴に小動物が避難するように、お母さんという嵐が去る
のを、ジジの後ろでじっと待っているぼく。そしてお母さんの
言うことも、ぼくの言い分もじっくり聞いて、ゆっくりぼくの
間違いをさとし、謝るきっかけまで作ってくれる人。
似顔絵を描いてくれたり、よく飛ぶイカ飛行機の作り方を
伝授してくれたり、コマの回し方、蝉の捕まえ方など、昔の遊
びをじっくり教えてくれる先生でもあった。一人っ子のぼく
には両親とはまた違う特別な人、いつも、ぼくの味方で、やさ
しく受け止めてくれる。
ジジの部屋からはいつもクラシックが流れていた。目を閉
じて気持ち良さそうに聴いているところに、ぼくが入ってい
くとベートーベンやモーツァルトの話をしてくれた。初めて
買ってくれた絵本もベートーベンだった。五歳のぼくには難
しかったが、何度も繰り返し読んでくれて、ベートーベンとい
う音楽家をジジはかなり好きなことが、小さいながら理解で
きた。だから大好きなジジにベートーベンのピアノソナタを
弾いてあげたくてピアノを習い始めた。
いつかぼくの弾くベートーベンピアノソナタを、うっとり
聴き入ってくれる姿を夢みて、練習して六年、やっとベートー
ベンまでたどり着いた。それなのに、大きくてぼくにとって
目標だったジジは、あっさりと病気に負けて小さな白い箱に
なって帰ってきた。
両親に頼んで、その小さな箱をピアノの隣に置いてもらう
ことにした。みんなはびっくりするがまったく怖くはない。
だってジジだから。その箱に今日もまだまだのベートーベン
を聴かせる。うっとりするまで。
今でもジジのことは、忘れない。幼かったぼくにやさしく、
丁寧にいろんなことを教えてくれたジジに「ありがとう」を
言い続けたい。