国譲りの使者
葦原中国をめぐる高天原の神々とオホクニヌシの暗闘
◆高天原からの使者をオホクニヌシが懐柔する
オホクニヌシが治める葦原中国は栄えた。
これを高天原から見たアマテラスは、本来葦原中国は我が御子が治めるべき国であると
して、オホクニヌシに国を譲らせたうえで、子のアメノオシホミミを統治者として降臨さ
せようとする。しかし、アメノオシホミミは葦原中国の騒がしさを見て恐れおののき、
戻ってきてしまう。そこでアマテラスと神々は、相談して国譲りの折衝役となる神を遣わ
すことにした。
だが、一筋縄ではいかないオホクニヌシは、次々と使者を懐柔してしまう。
最初の使者アメノホヒは、オホクニヌシにおもねって三年間も復命しなかった。このア
メノホヒは出雲大社の祭祀を担う出雲氏の祖先神であり、『日本書紀』では国譲りののち
にオホクニヌシの祭祀を担当したと記されている。
次に遣わされたアメノワカヒコは、あろうことか、オホクニヌシの娘シタデルヒメと結
ばれてしまう。そして自分が葦原中国の統治者になろうと野心を抱き、八年間も復命しな
かった。アマテラスがアメノワカヒコを問いただすために雉きじのナキメを遣わしたとこ
ろ、側近のアメノサグメにそそのかされたアメノワカヒコによってナキメは射い殺ころさ
れてしまう。このアメノサグメは天あまの邪じや鬼くの原型で、災いをもたらす巫女的存
在といわれる。
この反逆行為はアメノワカヒコの破滅を招く。ナキメを貫いた矢は高天原のカムムスヒ
のもとに届いた。
カムムスヒが、アメノワカヒコに邪心があれば当たれと矢を投げ返すと、矢はアメノワ
カヒコの胸を貫き、絶命させたのである。夫の死を悲しむシタデルヒメの慟どう哭こくは
天界にまで届いたという。
アメノワカヒコの父アマツクニタマはこれを聞いて嘆き悲しみ、出雲に降って喪も屋や
を築いた。
このあと、アメノワカヒコの葬儀へと場面は移る。このとき弔問にやって来たアヂスキ
タカヒコネは、アメノワカヒコと容姿がよく似ていたことから、誰もがアメノワカヒコが
生き返ったと勘違いしてしまう。死者と間違えられるのは、その死者と同じ運命に見舞わ
れることを意味し、たいへん不吉なことであった。そのため、アヂスキタカヒコネは激怒
し、アメノワカヒコの喪屋を蹴飛ばした。喪屋は美み濃の国まで飛んで喪も山やまとなっ
たという。