第五章
倭は国のまほろば
英雄たちの遠征物語
【第五章あらすじ ─ヤマトタケルの遠征─ 】
父に疎まれながらも忠実に命令を果たしていった皇子の悲劇
イクメイリビコ(垂すい仁にん天皇)の跡を継いだ第十二代天皇オホタラシヒコオシロ
ワケ(景けい行こう天皇)には多くの子がいたが、御子のひとりオホウスは、父の求婚相
手を横取りしたために父の前に出られずにいた。そこでオホタラシヒコは、オホウスの弟
ヲウスにオホウスを教え諭すように命じたが、ヲウスは兄を殺してしまう。
天皇はそんなヲウスの力に恐れをなして、彼に朝廷に従わない九州南部のクマソタケル
兄弟の征伐を命じた。ヲウスは叔母ヤマトヒメから授かった衣装をまとって女装し、宴に
出る女たちに紛れ込んでクマソの館へと潜り込んだ。そして兄弟が油断したのを見すまし
て、兄を刺し殺し、逃げる弟も捕らえて剣で刺し貫いた。弟はヲウスの武勇を称えてヤマ
トタケルの名を贈り、息を引き取った。
クマソを制圧したヤマトタケルは、帰途出雲いずもの平定に取りかかる。彼は出雲の主
イヅモタケルと懇意になり、油断させ、策略を駆使して討ち取っている。
こうして西方のまつろわぬ者どもを平定し、大和に凱旋したヤマトタケルであったが、
休む間もなく東国遠征を命じられる。出しゆつ立たつにあたってヤマトタケルは、叔母の
ヤマトヒメのもとに立ち寄り「父は私に死ねというのか」と嘆く。ヒメは甥を励ますかの
ようにひと振りの剣と袋を、万一のときに使えと手渡して見送る。
だが、その後の遠征は苦難の連続であった。相さが武む国で罠にはめられ、野原に火を
放たれたときにはヤマトヒメからもらった剣で草を払い、危難を脱出した。海神の怒りを
買い、海が荒れて船が難破しかけたときには、后のオトタチバナヒメが自ら海の中に入
り、犠牲となって海神を鎮め、無事に海を渡っている。
やがて東国をも平定したヤマトタケルは、その帰路、伊い吹ぶき山やまの神に暴言を吐
き、怒りを買う。神が降らせた大粒の雹ひようにさらされたヤマトタケルは、すっかり衰
弱し、やがて能の褒ぼ野のの地で力尽きて絶命する。この知らせを聞いた妻子が集まり、
嘆き悲しむなか、ヤマトタケルの魂は、白鳥となって天へと去っていったという。
そのヤマトタケルの息子タラシナカツヒコが第十四代仲ちゆう哀あい天皇である。だ
が、この天皇は、新羅しらぎへの遠征を促す神託を無視したために落命する。
これに代わって身重の皇后オキナガタラシヒメ(神じん功ぐう皇后)が新羅遠征を敢行
し、成功へと導いている。皇后は筑ちく紫しに戻りホムダワケ(応おう神じん天皇)を出
産するが、ホムダワケの異母兄がホムダワケの命を狙っているという話を耳にする。そこ
で皇后は、御子が亡くなったと偽って油断させ、異母兄たちを討ち取った。そしてホムダ
ワケが第十五代天皇として即位したのである。