スミノエノナカツミコの謀反
天皇を河内より駆逐するも、側近の隼人に殺害された反逆者
◆皇位を狙い天皇の弟が謀反を起こす
オホサザキが亡くなると、その跡を長男のイザホワケ(履中天皇)が継いだが、それは
波乱の幕開けとなる。
即位を祝う宴のあと、イザホワケは酒に酔い、眠ってしまう。そこへかねてより皇位を
狙っていた弟のスミノエノナカツミコが、御殿に火を放ったのである。側近のアチノアタ
イが機転をきかせてイザホワケを担いで燃え盛る御殿を脱出し、逢おう坂さか山の登り口
までやってきた。すると、そこにひとりの少女が現われ、当麻を回って逃げるよう助言し
た。
はたしてその経路をたどったところ、一行は無事に石いその上かみ神宮へと逃げ込むこ
とに成功した。石上神宮とはイハレビコの東征を助けた神剣フツノミタマを神体とした社
である。ここに逃げ込んだのは、当時、この神社が武器庫として使用されていたため、武
具の確保を優先したことと、武神フツノミタマの力を得るためであった。
そこへイザホワケの三弟ミヅハワケが馳せ参じてきた。しかしすでに次弟スミノエノナ
カツミコに裏切られているイザホワケは疑心暗鬼に陥っており、このミヅハワケも信用で
きない。弁明する弟に対して、謁見を許す前にスミノエノナカツミコの殺害を命じる。
そこでミヅハワケはスミノエノナカツミコの側近で隼はや人とのソバカリに接近。大お
お臣おみにすると買収し、主人のスミノエノナカツミコを殺害するように仕向けた。ソバ
カリはミヅハワケの言葉に乗って、ナカツミコのもとへと向かうと、ナカツミコが厠に
入ったところへと近づき、戸の外から矛で突き殺してしまった。
だが、ミヅハワケは考える。主殺しも平気でやってのけるソバカリを生かしておいた
ら、何をするかわからない。
そこで、逢坂の手前付近でソバカリにねぎらいの酒を振る舞って油断させ、大きな杯で
顔が隠れた瞬間に首を刎はねたのだった。
ミヅハワケは天皇に報告するために翌日(明日)出発しようとしたことで、この辺りは
アスカと名づけられた。さらに、やがて大和近くまでやって来たとき、ソバカリを殺害し
て穢けがれたことを理由に禊みそぎをしてから翌日(明日)、神宮に参上しようと決意し
た地もアスカと名づけられた。
以来、前述のアスカが近ちかつ飛鳥あすか(大阪府羽曳野市飛鳥)、後述のアスカが遠
とおつ飛鳥あすか(奈良県高市郡明日香村)と名づけられた。
こうして無事天皇に拝謁したミヅハワケは、のちに天皇に即位している。
だがこの一件、『日本書紀』によれば、もっと深い根があったようである。そもそも皇
位を狙うナカツミコが、イザホワケの即位が決定してから殺害を企むのでは遅すぎる。そ
の点『日本書紀』では天皇の太子時代の話として進めている。
太子の使者としてクロヒメのもとに赴いたスミノエノナカツミコは、自らを太子と偽
り、クロヒメと通じてしまう。そして事の露見を恐れて、先手を打って蜂起したのであ
る。
その反乱を漢直の先祖アチノオミら三人から聞かされた太子だが、それを信じない。そ
こで三人は太子を馬に乗せて難波を脱出。石上神宮へと向かっている。