第七章
人、天皇を取りつ
武勇の天皇を生んだ大和の動乱
【第七章あらすじ ─勇猛な御子─ 】
血気盛んなオホハツセによる皇位継承とその没後
ヲアサヅマワクゴノスクネ(允いん恭ぎよう天皇)が崩御すると、キナシノカルノミコ
が皇位を継承するはずだった。ところが、ここで問題が起きる。カルノミコは、あろうこ
とか血のつながった実の妹カルノオホイラツメに恋をして、近親相姦を犯してしまったの
である。この醜聞は瞬く間に世間に知られ、家臣の心はカルノミコを離れていく。やがて
彼は捕らえられて伊予国に流罪となり、あとを追ってきたカルノオホイラツメとともに、
手に手を取って心中してしまった。
代わって天皇となったのは、弟のアナホノミコ(安あん康こう天皇)だった。あると
き、彼は弟のオホハツセのために妃を選んでやろうとして、叔父オホクサカの妹に白羽の
矢を立てる。オホクサカはアナホノミコの要請を喜んで受諾するが、私利私欲に目がくら
んだ使者のネノオミが「オホクサカは天皇をないがしろにしたうえ、その願いを断った」
と偽の報告をしたため、アナホノミコは激怒してオホクサカを殺害したのみならず、その
妻ナガタノオホイラツメを奪って自身の妃にしてしまった。しかし、のちに事実を知った
彼女の連れ子マヨワの復讐に倒れる。
アナホノミコが暗殺の報を知ったオホハツセは、兄たちに「仇を討つべきではないか」
と打診するが、よい返答を得ることができなかった。すると、オホハツセは激怒してクロ
ヒコ、シロヒコというふたりの兄を殺害するとともに、マヨワが逃げ込んだツブラノオホ
ミの邸宅を、軍勢を率いて包囲。ふたりを自害に追い込んだ。
さらに、オホハツセは従い兄と弟こにあたるイチノヘノオシハを殺害。有力な皇位継承
候補がいなくなったところで、即位した(雄ゆう略りやく天皇)。そんな彼は様々な恋愛
譚を残している。美和(三輪)川のほとりに遊んだ際には、アカヰコという娘を見て「近
いうちに私が呼ぶから嫁がずにいろ」と命じたまま、すっかり忘れて八十年もそのままに
していた。そのほか、吉野川のほとりでも美しい女性に出会い、結ばれた逸話などが収録
されている。その他、オホハツセは かつら城ぎ山やまに出かけた際には、猪に追いかけ
られたり、ヒトコトヌシという神に出会ったりという不思議な体験をしている。数々の恋
物語と歌を残したオホハツセが崩御すると、シラカノオホヤマトネコ(清せい寧ねい天
皇)が継いだ。しかし、彼はすぐに没してしまい、皇位を継ぐ者がいなくなってしまっ
た。そこで、かつてオホハツセに殺害されたイチノヘノオシハの忘れ形見オケとヲケが発
見され、皇位に就くこととなった。
こののち、オケ(仁にん賢けん天皇)から推すい古こ天皇(トヨミケカシキヤヒメ)に
至るまで天皇の系譜が連なって、『古事記』の物語は締めくくられる。