キナシノカルノミコの悲恋
禁断の恋に身をやつし、非業の死を遂げた兄妹
◆皇位継承の混乱を招く醜聞が発覚する
ヲアサヅマワクゴノスクネ(允恭天皇)が崩御。跡を継ぐのは第一皇位継承権を持つキ
ナシノカルノミコの予定だったが、ある醜聞の発覚によって事態は意外な展開を見せる。
ヲアサヅマワクゴノスクネには五男五女がいたが、このうち次女のカルノオホイラツメは
大変な美女として知られていた。その美しさは衣を通して輝くほどだったため、衣そ通と
おりと呼ばれたという。そんな彼女に同母兄であるカルノミコが恋をしてしまう。恋心を
抑え切れなくなり、ついには実の妹と契りを結ぶ。
その際、カルノミコは自分の思いを伝える歌をせっせと妹に贈っている。その歌が世間
に知られ、ふたりの関係も人々の知るところとなってしまったのである。
当時、母の異なる兄弟姉妹間での婚姻はよく行なわれていたが、同母の兄弟姉妹間での
恋愛はタブーとされていた。
これによって人心はカルノミコを離れ、彼を見限った家臣たちはヲアサヅマワクゴノス
クネの三男アナホノミコを持ち上げる。自分が危険な立場にあると感じたカルノミコは、
大おお臣おみオホマヘヲマヘノスクネのもとへ逃げ込むが、軍を率いたアナホノミコに
よって取り囲まれてしまう。アナホノミコはスクネに対して話し合うよう説得。これに応
じてスクネはカルノミコを引き渡してしまった。大臣に裏切られたカルノミコは捕らわれ
の身となり、伊い予よ国へ流罪となってしまったのである。
伊予の地でもカルノミコは、妹への変わらぬ思いをいくつもの歌にする。カルノオホイ
ラツメも兄に歌を贈り、ついにはカルノミコの跡を追う。
ふたりは伊予にて再会するが、それはやはり道ならぬ恋であり、幸せな結末を迎えるこ
とはなかった。ふたりは再会の喜びに浸ると、手に手を取り合って自害して果てたのだっ
た。