『日本書紀』との違い
コラム 雄略天皇紀に登場する世にも奇妙な物語
『日本書紀』の雄略天皇紀には、『古事記』に見られない興味深い奇談が盛り込まれてい
る。
その代表がチヒサコベノスガルの話だ。
あるとき天皇は、皇后や妃に桑の葉を摘み取らせて、養蚕を勧めようとした。そこでス
ガルに命じて、国内の蚕こを集めさせることにした。ところがスガルはそれを「児こ」と
勘違いし、蚕ではなく嬰わか児ご、つまり赤ん坊を集めてきてしまった。
それを知った天皇は爆笑し、その赤ん坊を自分で養うよう命じて、スガルに「少ちいさ
子こ部べ」という姓かばねを与えた。
彼はのちに天皇に命じられて三輪山で大蛇を捕まえるなど、その後も天皇のもとで重要
な任務を担っている。スガルは九世紀の仏教説話集『日に本ほん霊りよう異い記き』にも
登場し、彼の死後、その墓に立てた柱の裂け目に雷が挟まっていたという。
また、月夜の埴輪の馬という不思議な話も登場する。河内国に住むある男が応神天皇陵
の前を通ったとき、竜のように蛇行したり、急に鴻おおとりのように走る素晴らしい赤い
馬を見かけた。その馬が欲しくなった男が持ち主に頼んで譲ってもらい、 うまやに入れ
たところ、翌朝、その赤い馬は埴輪の馬に変わっていた。陵に戻ると、交換したはずの男
の馬が埴輪の間に立っていた。男は埴輪の馬と取り替えて自分の馬を連れて帰ったとい
う。
現存する文献中、最古の浦島太郎伝説もある。
雄略天皇紀二十二年七月条に記された話によれば、丹波国与謝郡の筒川の人、水みずの
江えの浦うら島しま子こが舟に乗って釣りをしていたところ、大亀を得て、それがたちま
ち女になったという。浦島子はこれを妻としてふたりは海中に入って蓬ほう らい山に至
り、仙境を見て回ったと記されている。
浦島太郎伝説は『丹後国風土記』逸文にも記されており、こちらも大亀が女性に変化
し、ともに蓬 山へ至る話となっている。