【第七章の人々】
木キ梨ナシノ軽カルノ太ミ子コ・軽カルノ大オホ郎イラ女ツメ
禁忌を犯して愛し合った美男美女の兄妹
古代の悲恋物語の代表とされるのが、キナシノカルノミコとカルノオホイラツメの恋で
ある。ふたりは、ともにヲアサヅマワクゴノスクネ(允恭天皇)を父とし、皇后オシサカ
ノオホナカツヒメを母とする兄と妹であった。
カルノオホイラツメは、あまりの美しさに肌の色が衣を通して照り輝くほどだったた
め、衣そ通とおりと呼ばれたという。カルノミコのほうも、見る者はつい見とれてしまう
ほど美しい容姿だという美男で、皇位が約束された身だった。
この同父同母ふたりが、愛し合ってしまったのである。当時は、兄弟姉妹であっても同
父異母、つまり母親が違っていれば問題はないとされ、結婚もできた。だが、同じ母親か
ら生まれた者同士が通じることは禁じられ、皇位継承者であってもその資格を剥奪される
ほど厳しい処罰が下されたのである。やがてふたりの仲は、周囲の知るところとなり、カ
ルノミコは人心を失った。同母弟のアナホを皇位に就けよとの動きが起こり、カルノミコ
も手勢を集めたもののアナホのほうが優勢であり、味方の裏切りもあってカルノミコは捕
らえられて伊予に流される。
この説話については、伝承によって様々な違いがある。流されたのはふたりの仲が明る
みに出たためだとも、流されたのは位の高いカルノミコではなくカルノオホイラツメのほ
うだとも伝えられている。だが、カルノミコの待っていてくれという歌、カルノオホイラ
ツメがカルノミコを追って旅立とうとする歌が残されており、どれが真相かは不明であ
る。
カルノミコを追っていったカルノオホイラツメが、その後どうなったかも分からない。
再会できなかったとも、会えたものの罪人であるカルノミコと暮らすことはかなわず、
ふたりで命を絶ったともいう。愛 県松山市にはふたりを祀る軽かる之の神社があり、比
翼塚が建っている。