【第七章の人々】
飯イヒ豊トヨノ皇ヒメ女ミコ
伝記に残る伝説の女性統治者
シラカノオホヤマトネコ(清寧天皇)が崩御したあと、政務を担当したとされるのがイ
ヒトヨである。『日本書紀』によると、弘を計け皇子(のちの仁にん賢けん天皇)と億お
計け皇子(のちの顕けん宗ぞう天皇)の兄弟が王位を譲り合ったので、ふたりの姉に当た
る飯豊皇女が仮に即位して飯豊王となったが、十か月後に死去したという。
『古事記』においてもイヒトヨが政務を見たという記事が見られるが、内容には若干の違
いがある。こちらは、シラカノオホヤマトネコ崩御のあと、後継者にふさわしい人物がい
なかったのでオケ、ヲケの叔母に当たるイヒトヨが臨時で政務を担当した。その後、兄弟
が発見されたので、イヒトヨはそれを喜び、宮廷に招いたという。
政務を担ったというイヒトヨの役割は、即位と同じと見るむきもある。ただし、歴史的
事実として認められていない。それよりも『古事記』では、臣下の者がイヒトヨに皇位継
承者の存在を問いかけており、またオケ、ヲケの兄弟を招いたのもイヒトヨとされてい
る。このことから、イヒトヨは、皇位継承者を推すことのできる、位の高い巫女のような
役割を果たしていたのではないかと考えられる。