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風雨の晩の小僧さん(2)

时间: 2022-12-07    进入日语论坛
核心提示:母ははと娘むすめは、戸外こがいに叫さけぶ雨風あめかぜの音おとに耳みみを澄すまして、火鉢ひばちのそばでお話はなしをしていま
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母ははと娘むすめは、戸外こがいに叫さけぶ雨風あめかぜの音おとに耳みみを澄すまして、火鉢ひばちのそばでお話はなしをしていました。それは夜よるの八時じごろでありました。
隣となりのペスが、垣根かきねの内うちからしきりにほえているのが聞きこえます。この犬いぬは、知しらぬ人ひとを見みるとよくほえる犬いぬで、いつか郵便屋ゆうびんやさんが、手紙てがみの配達はいたつができないと怒おこっていたことがありました。その後ご、しばらく鎖くさりでつないであったが、またこのごろは、放はなしておくようであります。
「よくほえる犬いぬだこと、なににほえているのでしょうね。」と、かね子こは、読よんでいる雑誌ざっしから目めを上あげて、外そとのけはいを聞きき取とるようにしていました。
「あの犬いぬがいると用心ようじんはいいけれど、外そとを通とおる、なんでもない人ひとまでが迷惑めいわくしますね。」と、お母かあさんは、娘むすめが正月しょうがつに着きる赤あかい色合いろあいの勝かった衣物きものを縫ぬいながら、おっしゃいました。
「ごめんください。」
このとき、玄関げんかんのあたりで、小ちいさい声こえがしました。その声こえは、雨風あめかぜの音おとに、半分はんぶん消けされてしまったのです。
「だれかきたのでない?」
「どなた!」といって、お母かあさんは、立たち上あがられました。かね子こは、全神経ぜんしんけいをお母かあさんの足音あしおとの消きえていく方ほうへ集あつめていました。
「まあ、この雨あめに、とどけていただいたのですか、すみませんでしたねえ。」
お母かあさんの、こういっていられる言葉ことばを聞きくと、
「オーバーシューズが、できてきたのだわ。」と、かね子こは、すぐに走はしって、お母かあさんのところへいきました。
「かね子こ、この雨風あめかぜの中なかを持もってきてくださったのだよ。」
お母かあさんは、くつ屋やの小僧こぞうさんに対たいして、心こころからねぎらっていられました。かね子こは、いままで不平ふへいがましいことをいったのが、なんだか気恥きはずかしく感かんじられて、顔かおを赤あからめました。しかし、さすがに喜よろこびを禁きんじられなかったのです。そして、そこに、やっと十二、三の少年しょうねんが、ぬれねずみになって立たっているのを見みると、目頭めがしらが熱あつくなりました。軒燈けんとうの火ひが、マントを照てらして、流ながれ落おちるしずくが光ひかっています。
「お足あしに合あいますでしょうか?」と、ふろしきを解といて、オーバーシューズを出だして、少年しょうねんはいいました。
「そうですね、だいじょうぶでしょう。かね子こ、ちょっとくつに合あうか、当あててごらんなさい。」と、お母かあさんは、おっしゃいました。
かね子こは、玄関げんかんわきの戸とだなを開あけて、くつを取とり出だしました。そして、オーバーシューズをはめてみますと、すこし小ちいさいようです。
「どれ、私わたしにお見みせなさい。」と、お母かあさんは、かね子この手てからオーバーシューズを受うけ取とって、みずからくつにはかせようとしましたが、やはり小ちいさくて入はいらないのでした。これを見みていた、小僧こぞうさんは、
「すこし小ちいさいようですね。持もって帰かえりまして直なおしてまいりましょう。そして、明朝みょうちょう早はやくおとどけいたします。」といいました。
「朝あさは、学校がっこうが早はやいのですから、七時じまでに持もってきてもらわないとまにあわないのですよ。」
「承知しょうちいたしました。」
小僧こぞうさんは、オーバーシューズを包つつんできたふろしきへふたたび包つつみかけていました。
「この雨風あめかぜの中なかをせっかく持もってきてもらってお気きの毒どくですね。」
「どういたしまして、こちらが悪わるいのです。寸法すんぽうをまちがえましてすみません。」
小僧こぞうさんは、丁寧ていねいにお辞儀じぎをして帰かえってゆきました。
それを見送みおくっていた、かね子こさんは、小僧こぞうさんの姿すがたが闇やみの中なかに見みえなくなる時分じぶん、
「かわいそうね。」と、しみじみとした調子ちょうしで、お母かあさんに向むかって、いいました。
「みんな、ああして修行しゅぎょうをして、大おおきくなって、いい商人しょうにんになるのですよ。」と、お母かあさんは、いって、しばらく考かんがえていらっしゃいました。
*   *   *   *   *
信吉しんきちは、朝早あさはやく目めを覚さますと、昨夜さくやからの雨あめは、まだやまずに降ふりつづけていました。
「そうだ、お嬢じょうさんの学校がっこうへいかれる前まえに、オーバーシューズをおとどけしなければならない。」
彼かれは、起おきると、早はやくそうじをすまして、雨あめの中なかを出でかける仕度したくをしました。昨夜さくやは、はじめての道みちを歩あるいて、家いえを探さがすのにずいぶん骨ほねがおれたけれど、今日きょうは、その心配しんぱいがなかったのです。
「ああ、ここだったな。」と、彼かれは、犬いぬにほえられた家いえの前まえへくると思おもい出だしました。
この雨あめでは、ああいったけれど、小僧こぞうさんは学校がっこうへいく前まえにはとどけられないだろうと、食卓しょくたくに向むかって、かね子こが思おもっているところへ信吉しんきちは、ちょうど玄関げんかんを開あけて入はいったのです。
これに対たいして、かね子こもお母かあさんも感心かんしんしてしまいました。そして、二人ふたりは、いっしょに玄関げんかんへ飛とび出だしてきてお礼れいをいったのでした。
信吉しんきちは、ただ約束やくそくを守まもって、なすべきことをしたまでだと思おもったが、こうして感謝かんしゃされると、自分じぶんの体からだがいくら雨あめにぬれてもうれしかったのであります。
その日ひ、故郷こきょうの父親ちちおやから久ひさしぶりに便たよりがありました。今年ことしの夏なつは、ひじょうに暑あつかったかわりに、作物さくもつがよくできて、村むらは、景気けいきがよく、みんなが喜よろこんでいる。我わが家やでも、日ひごろからほしいと思おもった牛うしを一頭とう買かったと書かいてありました。信吉しんきちは、心こころの中なかで、幾いくたびも万歳ばんざいを叫さけんだのであります。
 
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