一週間が瞬時のうちに過ぎてしまう。
月曜日までにはあの仕事、水曜日までにはあの原稿、そして金曜日にはあれをやって、そう、そう、その次の月曜日までには……と思って、その通り四苦八苦して実行すると、もう一週間が飛び去っているのだ。
先日、親類の女子大生が私の日程表を見て、
「叔父さんの人生って、つまらないのねえ」
と、しみじみ言っていた。
彼女は一月中だけで二度もスキー旅行へ出かける計画があるらしい。そのほかスケートリンクへ行ったり、ショッピングをしたり、遊びのスケジュールにはこと欠かない。それに比べて、ああ、私はなんたることか。新年早々からあさましいほどにいそがしい。三日間さかのぼって夕飯に何を食べたか思い出せないのは老化現象だと聞かされていたので、この一週間なにをやっていたか、仕事のメニューを少し思い出してみた。
一月十一日、日曜日。明日から日本経済新聞主催の文化講座が始まる。私の担当は�小説の作法と手法�。去年一年間、基礎講座を受け持ったが、今年はその継続と、もう一つ新しい人のためのコースを担当することになった。午前二時間、午後二時間。本日はその下準備。大相撲の初日をテレビで見て、その後飲酒少々。夜は�アサヒグラフ�と�東京新聞�の取材を受ける。ベッドに入って�波�連載中の�恐怖抄�に何を書いたらいいかあれこれ思案。結局想を得られず就眠。
一月十二日、月曜日。日経文化教室の講義のため伊勢丹《いせたん》会館へ。二つの講義のあいまが二十分間しかないので、サンドイッチを頬張《ほおば》って昼食。午後の講義のあと、新しい受講生のかたがたと歓談。夜は�ショッピング�編集部のA氏、S氏らと新年会。明日の仕事を考えて酒は控え目に。
一月十三日、火曜日。四十六歳の誕生日である。しかし、なにほどかの感慨を抱くひまもなく、朝早くから仕事場に入った。今日中になにがなんでも�野性時代�連載中の�異形の地図・第六話�三十枚を書きあげなければいけない。骨子は完全に頭の中にできあがっているのだが、具体的に書く作業というのは、やはり小説作りの中で一番つらい、苦しい部分である。私のようなアイデア中心の作品でもこの事情には変わりはない。
�アイデアが浮かべば八分通りできたようなものです�と言うのは、�ここまで来れば見通しはつく�という安心感の面から吐く発言であり、枡目《ますめ》を一つ一つ埋めていく作業は、確実に一定の時間を必要とする。あっと思う間に書き上がっていた、ということはありえない。ほとんど休みなく書き続けて夕刻七時に脱稿。途中に�波�編集部のT氏から電話があって「明けがたまででもお待ちしますから、なにがなんでも今晩中に原稿をいただきたい」とのこと。絶体絶命の状態らしい。夜八時に家に帰り、軽い夕食ののち、�恐怖抄�六枚を考え、筆を取り、夜半十二時に書き終える。T氏は徹夜のよし。編集者も大変だなあ。入浴ののち水割り少々。体がコンニャクにでもなったみたいにグタグタに疲れている。
一月十四日、水曜日。�婦人画報�連載中の�女のいる風景�二十枚をこれまた本日中に書きあげなければいけない。昨日の三十枚よりは十枚少ないから、おおいに心強い。今回が十二回連載の最終回。朝早く仕事場に入り、四時に脱稿。新潮社へ所用があって赴き、そのあと�婦人画報�編集長U氏に四ツ谷でお会いして原稿を手渡す。午後六時半、新宿で�太陽�の書評会。毎月一回、平凡社の雑誌�太陽�の書評欄の図書選択のため、小田島雄志、長部日出雄、合田佐和子の諸氏と会合する。私は寺山修司著�不思議図書館�、�風の書評�、B・エドワード著�脳の右側で描け�、C・H・マックギラフィ著�エッシャー、シンメトリーの世界�などを持ち帰る。
一月十五日、木曜日。成人の日、江東公会堂で十一時より講演。演題は�新しく成人になる人への期待�。早起きをして講演内容のメモを作る。講演のあとはすぐにNHKに向かい、ラジオ第一放送の�成人おめでとうヤング・スタジオ�へゲスト出演。われながら、いろんなところへ顔を出すなあ。おおいに反省。夜は酒を飲みながら、日経文化教室受講生の作品を読む。
一月十六日、金曜日。短い原稿の執筆がいくつか溜《たま》っている。�アサヒグラフ�の�わが家の夕めし�のキャプション一枚半。�サンケイ新聞�のコラム�直言�一枚半、�週刊時事�の連載エッセイ�脳味噌通信�五枚半を猛スピードで午前中に書く。早起きの賜物なり。十一時半に光文社出版部のS氏、H氏が見えて、出版企画について検討。午後�ショッピング�の取材で人形町界隈の老舗《しにせ》食べ物屋をめぐり歩く。その後東京12チャンネルへ赴き、明日のテレビ番組�ウィークエンド東京�の打ち合わせ。下手くそながら、この番組のキャスターを毎週つとめているので。
一月十七日、土曜日。午前中は�ショッピング�連載の�東京意外誌�十二枚の一部分を書く。午後は�ウィークエンド東京�の司会へ。番組の途中で、電通のM氏の打ち合わせ。これは来週、広島へ行く下準備。家に帰って余力があれば�東京意外誌�を書くつもりだったが、ダウン。
まことに�つまらない人生�ですなあ。