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黒田如水30

时间: 2018-11-16    进入日语论坛
核心提示:与君一夕話二「間に合わん。そんな常道を踏んでいては、遂に、間に合わんことになってしまう」 すこし語気は激越なものをふくん
(单词翻译:双击或拖选)
 与君一夕話
 
「間に合わん。そんな常道を踏んでいては、遂に、間に合わんことになってしまう」
 すこし語気は激越なものをふくんで来た。もちろん官兵衛のそれには、すでに一壺《こ》を空《あ》けた酒のちからも手伝ってはいたろう。杯は彼の憤然たる唇から常に離れなかった。
「——間に合わんとは?」
 秀吉は笑うのである。ふと、官兵衛を拍子抜けさせるようなとぼけかただった。
「ご存知ないか。毛利方の軍備というのは、一朝一夕《せき》のものではありませぬぞ。想像以上と思わねばなりますまい」
「わかっておる」
「摂津《せつつ》、山城《やましろ》、和泉《いずみ》には、からくもお味方が点在しておるが、一歩播州《ばんしゆう》へ入ってごらんあれ。織田家に靡《なび》くか、毛利につくか、などと考えている者は恐らくこの黒田官兵衛ぐらいなものでしょう。まず悉く毛利与党です」
「む。さもあろうか」
「陸上はしばし措《お》いても、瀬戸内から摂津領一円、大坂の河口まで、海上を支配しているのは、どこの国ですか。一毛利家ではありませんか。彼には常備の兵船数百と千余の輸送船があって、絶えず浪華《なにわ》や泉州と交通し、また石山本願寺とも連絡をとっているが、まだ織田家には一艘の兵船、一隊のお舟手《ふなて》ある由も聞いていません」
 このとき秀吉は実にいやな顔をした。二本の皺《しわ》が眉のあいだに立った。こういう苦々《にがにが》しさも時には示す人かと思われたくらいである。
 感の敏《さと》い官兵衛は、すぐ杯を下に置いて、それを緘黙《かんもく》の機とした。もしこのあいだに、傍らの竹中半兵衛が、くすくす笑ってくれなかったら主客のあいだに、ぴんと亀裂《きれつ》が入ったまま、救い難い空気となってしまったかも知れなかった。
「……官兵衛」
 秀吉も苦笑し出した。竹中半兵衛のそれに釣りこまれて、ぜひなく笑ったというかたちである。
「もう、ご酒は充分です」
 官兵衛はわざとあらぬ答えをして、とぼけると、
「いや、酒はすごせ。……だがな、官兵衛」
「はい」
「あまりほんとのことを申すなよ」
「何がですか?」
「やはり汝は、この筑前《ちくぜん》よりも、九歳《ここのつ》はたしかに若いな」
「織田家の今日あるゆえんも、これからもっと必要な力も、その若い力と夢ではありませんか」
 彼はいっぺんに気楽になった。まだ若いと折紙をつけられたからである。同時にすこし駄々《だだ》をこねるような口調を帯びてきたので、秀吉はすこしうるさくなったものか、
「まあ飲め。そして諸事、主君信長様にお目通りした上で、よくお話し申すとよい。筑前は、信長様のご指揮によってうごく一将たるにすぎん。……お城よりおゆるしがあれば、明日にでも、御辺《ごへん》を伴うて、岐阜城にのぼり、共に君前へ伺って、なお談合もいたそう程に」
 と、よい程になだめた。
 それからはもう一切、話は軍事にも政治にも触れなかった。官兵衛としては、主家小寺家の運命を賭《と》し、多くの反対を押切り、また父や妻子ともこれきり会わないかもしれないとまで別れを告げて来たほどな情熱と犠牲を胸に持っている。当然、なおそれらのことも、打ち明けたい気持でいっぱいだったが、かんじんな秀吉は、一小寺家の向背《こうはい》ぐらいは、いずれでもよし、といわぬばかりな体《てい》である。そういう無関心に対して鬱懐《うつかい》を強いるのもいさぎよくない心地がされるので、彼もまたそこまではいわずにただ杯をかさねていた。
「明日でも、お目にかかれば、御辺もまた信長様のご風格をよく察するであろうが、ご主君も陽気がお好きで、ご酒をあがられるとよく小姓衆に小唄舞《こうたまい》など求められ、ご自身も即興を微吟《びぎん》あそばしたりなされる。官兵衛、御辺には何ぞ芸があるか」
 秀吉の横道ばなしに、官兵衛はやや業を煮やして、
「小唄舞も仕《つかまつ》る。猿舞も仕る」
 と、嘯《うそぶ》いて答えた。すると秀吉は、
「それは器用な男だ。どうじゃ一さし舞わんか」
 と、自分の持っていた扇子を与えた。
「ここではご免です——」と官兵衛は手を振って断った。そして隅の方に眠たげにひかえている小姓へ向い、硯筥《すずりばこ》を求めて、その扇子へ何やらしたため終ると、
「殿こそ、お謡《うた》いください」
 と、秀吉の手へ返した。
 酬《むく》われた一矢《いつし》を苦笑してうけながら、秀吉は脇息《きようそく》から燭の方へ白扇を斜めにしながら読んでいた。
更《ふ》けてのむほど
酒の色
かたりあふほど
人の味
夜をみじかしと
誰かいふ
いづみ、尽きなき
さかづきを
「半兵衛。この裏へ、何ぞ認《したた》めてつかわせ」
 巧みに交《か》わして、秀吉はそれを、竹中半兵衛へあずけた。半兵衛は筆をとって、裏面へ、
与君一夕話
勝読十年書
 と書いて、
「殿のおいいつけなので、ぜひなく汚しました」
 と、さしだした。
 ふと手に取ったが、官兵衛は、じっと見つめている眼から、次第に酒気を払って、まだ墨の乾かぬ白扇をそっと下へ置き直すと、ていねいに両手をつかえて、半兵衛へ、
「ありがとうございました」
 と頭をさげた。
 眼もとに深淵《しんえん》の波紋《はもん》のような笑《え》みをちらとうごかしながら、半兵衛重治も、
「わたくしこそ」
 と、膝から両手を辷《すべ》らせた。
 もう夜が明けていた。寺房の奥では、勤行《ごんぎよう》の鐘の音がしているし、寺門に近い表のほうでは厩の馬がいなないていた。
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