二
鵙《もず》が高啼いている。山村の春はまだ浅い。
半兵衛は二人を従えて、疎林《そりん》の蔭の日なたへ行った。ほかほかと暖かい萱《かや》の枯れ草をしとねにして彼は坐った。ふたりの士はその前に泣いたままで平伏している。
「……多くをいわんでもいい。お汝《こと》たちの気持はよう酌《く》んでおる」
彼等の懸命《けんめい》なねがいのあらましを聞いて、半兵衛はこう慰《なぐさ》めた。察していた通り、この者たちはすでに伊丹城中における官兵衛の奇禍《きか》も、また信長から出ている松千代の処分にたいする厳命も——世上の風聞によって疾《と》く知っていたのである。
城主の半兵衛が、病を冒《おか》して帰って来たのは、安土の命もだしがたく、自分らの傅《も》り育てている松千代の処決《しよけつ》に見えられたものにちがいないということも、さすがに直感して、
(われら両名の生命を以て、何とぞ主人の和子《わこ》様にお代えくだされたい)
と、路傍に待って、嘆願に出たものであった。これが家中に知れては、当然、異論も出て、きき届けられるわけもないという点まで考えて、この直訴《じきそ》をなしたものである。
「由来、お汝《こと》たちの主人と自分とは、浅からぬ交《まじ》わりもなして来た仲。いかに安土のおいいつけなればとて、何でむざと、官兵衛どのにとって、大切な嫡子《ちやくし》をば、首として差出されよう。……案じるには及ばぬ。それがしの胸にまかせておきなさい」
彼の慰撫《いぶ》はねんごろであった。その温情に遭うとまた、二人の客臣はよけいに涙にくれた。半兵衛はその体《てい》を見ているに忍びなかった。
——世に質子《ちし》の身上ほど不愍《ふびん》なものはないと思っていたが、それはまだ世間を知らないし頑是《がんぜ》ないところもある。けれど、膝を屈して、他家に養わるる無邪気なものを守り通して、しかもよそにあっても主従の道をたがえず、事あればその生命にも代わろうとする傅役《もりやく》の辛さと難しさを思いやると、あわれなのはむしろ質子よりもこれらの者であるまいかと思い遣《や》った。