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黒田如水105

时间: 2018-11-16    进入日语论坛
核心提示:男の慟哭二 それから一刻も過《た》ったかと思われる時分だった。もう家に帰りついて寝たころのはずである新七が、あわただしい
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 男の慟哭
 
 それから一刻も過《た》ったかと思われる時分だった。もう家に帰りついて寝たころのはずである新七が、あわただしい声で、ふたたび山門を打ち叩き、何事か大声でどなっている。
 いま眠りに就こうとしていた母里太兵衛や後藤右衛門などが、
「新七らしいが?」
 と、怪しみながら庫裡《くり》を出て、山門の方へ行ってみると、ひと足先に、栗山善助がそこへ駆け出していて、山門をひらき、何事か新七から聞き取っているふうだった。
 後から来たふたりを認めると、その善助は、落着いた中にも烈しい語気で、
「すぐ一同に身支度してこれへ集まるようにいってくれ」
 と伝えた。
 寺にはかねて武具まで持ち込んであったと見え、たちまち駆け集《つど》って来た人々はみんな小具足に身を固め、槍長柄《やりながえ》など、思い思いの打物《うちもの》をかかえていた。
 善助や太兵衛や右衛門も、身をひるがえして、いちど寺の中へかくれると、たちどころに武装して出直して来た。
 ——が、まだ一党の者は、いったい何事が突発したのか、覚《さと》り得《え》なかった。
「みな揃われたか」
 栗山善助は、頭数をながめてから、早口に、且《か》つ明瞭《めいりよう》に告げた。
「——事情はわからぬが、明後日の夜半と期していた城中の内応が、突然、たった今、火の手となって勃発《ぼつぱつ》いたした。——織田軍もこれは予測《よそく》せぬところだったので、今し方、新七がこれへ宙を飛んで来る途中では、なお事の不意に狼狽《ろうばい》して、一兵も城には取っかかっていない様子であったという。——もとよりわれわれは、織田勢の力を恃《たの》むものでなく、ただただ主君のご一命を獄中からお救い申しあげる以外目標はない。時うつしては、或いは、どさくさ紛《まぎ》れに、荒木村重の家中が、獄裡《ごくり》にある官兵衛様のおいのちに危害を加えない限りもない。——ではこれからすぐ急ごう。お互いの働きは、日頃のしめし合わせの通り、たとい味方の者が、目の前で多くの敵に囲まれようと、主君のご安危《あんき》をたしかめぬうちは、互いに顧《かえり》み合わぬことだ。おぬかりあるな」
 十名の影はみな武者ぶるいした。そして夜鴉《よがらす》のような群ら影を躍らせて児屋郷の長い田圃道《たんぼみち》を駆け競《きそ》った。
 途中の森陰を繞《めぐ》ると、視野からまっすぐに丘が見える、城が見える。そして秋十月の夜空をそめて、一道の赤い火光が、天の川をつらぬいていた。
 いんいんたる貝の音や鉦鼓《しようこ》が城外の諸方面に聞える。総攻撃開始の気勢《きせい》である。けれど織田勢はまだ城壁の下に兵影は見えなかった。
 多くの兵馬がうごくのと違って、決死組十名の黒田武士たちは迅《はや》かった。彼等は丘の西方から柵《さく》を破って搦手《からめて》へ駆け上った。どこにも遮《さえぎ》る敵を見ない。ただいちめん吹き落ちて来る火の粉と煙だけだった。
 いちど空壕《からぼり》の底へ降りて、そこから城壁へ攀《よ》じのぼるのだった。これは当然、むずかしい離《はな》れ業《わざ》を要するものであるし、もし城壁の上から内部の武者が抵抗して来るなら、所詮《しよせん》、難なくは取りつけないはずであるが、その防禦もないのみか、
(ここから上がって来い)
 といわぬばかり、二ヵ所ほどから太い綱が下がっている。もちろん伊丹亘《いたみわたる》か加藤八弥太かの城内にある同情者の所為《しよい》にちがいはない。
 十名はふた手に分れてわらわらと争い登った。新七もあとから登った。そしていったん城壁の内部へ躍り越えると、もう十名はひとつにかたまっていられなかった。熱風火塵は横ざまに吹き暴《あ》れているし、いたるところに敵味方のけじめもつかぬ血戦が繰り展《ひろ》げられていた。そして何より猛威を示しているものは、今や櫓の三重あたりまで燃えのぼっている大きな炎であった。西の丸あたりも北曲輪にも炎は見え、附近の木々までばちばちと火の音をはぜて真っ赤な棒と化しかけている。
「武器庫《ぶきぐら》の獄は何処か」
「官兵衛様のお身はいずこに」
 と、人々ははや思い思いその在所《ありか》をさぐりつつまっしぐらに火の下へ潜り入っていた。
 
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