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黒田如水121

时间: 2018-11-16    进入日语论坛
核心提示:心契一「なに。於菊《おきく》? 」と、いぶかしげであったが、官兵衛はなおその眼を大きくみはって、「おお。飾磨《しかま》の
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 心契
 
「なに。於菊《おきく》? ……」と、いぶかしげであったが、官兵衛はなおその眼を大きくみはって、——
「おお。飾磨《しかま》の与次右衛門のむすめではないか。あの於菊ではないか」
 夢みる人のように何度もいった。
 そして彼女が答えるのも、もどかしげに、かさねて訊ねた。
「わしが伊丹城の獄中におったとき、あの藤蔓の這っておる高い窓の外から、わしの名を呼んだ者は、そなたではなかったのか、——夏の初め、まだ藤蔓の嫩《わか》いころだった」
 於菊はうなずいた。そしてその時からの苦しい思いを新たに胸へ呼び起したものか涙を膝にこぼした。
「どうして伊丹の城中にいたか」
 官兵衛は久しい間の謎をいま解きにかかったように、病褥《びようじよく》の中にある体の痛みも忘れていった。するとその時襖を開けて、栗山善助が、
「——お目ざめでございましたか」と、煎薬《せんやく》を盆にのせて持って来た。
「善助か。水がほしいのだ。水をさきにくれ」官兵衛がいうと、
「わたしがお持ちいたしましょう」
 と、於菊はすぐ起って行った。
 そのあとで善助がささやいた。
「殿。お驚き遊ばしたでしょう」
「何とも意外であった。どうして与次右衛門のむすめなどがこれに来ておるか」
「伊丹脱城の夜、殿がお遁《のが》れなされた後も、ひとりあとに残った衣笠久左衛門が、ようやく、於菊どのが、あの獄屋《ごくや》の裏の古池に落ち込んでいたのを見つけ、辛《から》くも救い出して来たのでございました」
「あ。……あの夜、あの折にもおったのか」
「焔と煙を冒《おか》して、殿のおられる場所へ、われらを導いてくれたのは、於菊どのでありまする。——もしあの際、於菊どのなかりせば、こうして主従がふたたびお目にかかる事ができたかどうかわかりません」
「解《げ》せぬのはその於菊がどうして伊丹の城中にいたのかじゃ。今もそれを彼女にたずねていた所だが……」
「殿ご救出のためわれら十三名が死を誓って姫路を発足いたした時から、於菊どのも決死組のうちに加わっていたのでございまする」
「あのかよわい身で」
「父の与次右衛門は年老《としと》っておることゆえ、自分を代りに召連れて給われと、われら同志の者へ強《た》っての頼みでした。——で、伊丹の白銀屋新七とは、義理ある兄妹でもありますので、新七の手づるを以て、城内にある離反《りはん》の者を語らい、奥仕えに入れて、ひそかに殿のご安否をつねに探らせていた次第にござりまする」
 この事は官兵衛も初めて知ったのであった。異様な感動に心も痺《しび》れたかの如くそのまま口を緘《つぐ》んでいた。廊下を歩むしずかな跫音《あしおと》がそれとともに主従の耳に聞えた。於菊である。命ぜられた水を器に汲んでもどって来た。
 一碗の水を彼女の手から飲ませてもらうと、官兵衛はまた仰向けに寝姿を直して枕の上の眼をふさいだ。
「みなも、寝るがよい」
 そこのふたりへも、次の間にいる母里太兵衛や衣笠久左衛門へもいって、やがて枕元の燈も消させた。
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