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平の将門24

时间: 2018-11-24    进入日语论坛
核心提示:飼いごろしに「小舎人、小舎人。おん内庭の御門をひらき、釣殿《つりどの》のおん前へ、遠国の客人が、お館へ献上の馬を、曳《ひ
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 飼いごろしに
 
 
「小舎人、小舎人。……おん内庭の御門をひらき、釣殿《つりどの》のおん前へ、遠国の客人が、お館へ献上の馬を、曳《ひ》いて見せいとの仰せであるぞ。——その、用意な急ぎ候え」
 右大臣家の老家司、臣賀《おみが》は、よく忠平に叱られつけているので、下の者へ、命を通じること、いつも、このように、くどくどしい。
 かれの語調をまねて、雑色部屋の者も、
「心得て候う」
 と、笑いながら、腰をあげ、なお臣賀老人が、しつこくいうのに、再び答えて、
「御献上の下野鹿毛。ただいま、釣殿のおん前へ、曳いて参ろうずるにて候。しばらく、おん待ち候え」
 と、どっと笑った。
 臣賀は、さらに、他の小者に、松かがりを、庭に焚かせて、露芝の遠くに、ひざまずいていた。
「小次郎、口輪をもってくれい。……小次郎、口輪を」
 雑色たちは、庭門のそばで、騒《あが》いていた。駻気《かんき》のつよい馬とみえ、ちょっと、手におえないらしいのである。
 日頃から、召使たちの間でも、馬にかけては相馬の小次郎——と、これだけは、通り者になっていた。実際、かれの手にかかって、おとなしくならない馬はないからである。
 小次郎は、性来、馬が好きだ。馬を見ると、肉親の者を見るような気がした。あの、故郷のひろい天地を、馬のにおいに感じる。また、大結ノ牧の馬房で、馬と一しょに、寝藁の中で寝た夜もおもい、馬の腹に枕して、泣き泣き眠った悲しい日のおもい出も奏《かな》でられてくる。
「おいっ。心得た。——離してよい」
 小次郎は、同僚から、口輪をうけとって、しっかり、つかんだ。
 そして馬の駻気を、なだめながら、しずしずと、貴人のまえに臨む歩調をとらせた。
 客の秀郷と、主の忠平は、廊の間へ出て、立っていた。
「……ほ。この馬か。なるほど、見事よな」
 忠平は、酔眼をほそめて、しきりに賞めた。この大臣は、輦の飾りには、ひどく凝っているが、乗馬には、まるで趣味はない。しかし、こう褒めるのは、馬は、貨幣だからである。殊に、名馬ともなれば、それは驚くべき高価だということは、よく知っているからだった。
 秀郷は、贈り物が、気に入ったと見て、さらに、自分で庭へ降りてきた。そして、この馬が、いかに名馬であるかという専門的知識をかたむけて、庭上から説明した。
 そのことばつきは、どう丁寧に述べても、いわゆる坂東なまりの粗野な語である。それが、耳なつかしく、心をひかれて、小次郎は馬をわすれて、秀郷の顔ばかり見ていた。
 年の頃は、三十八、九か。皮膚の色さえ、小次郎には、故郷のにおいが感ぜられる赭土色《あかつちいろ》の持主だった。眉は、粗で、眼はきれ長であり、面長な顎《あぎと》に近いあたりに、黒子《ほくろ》がある。この黒子に、毛が生えていたためか、小次郎の眼には、いつまで忘れない記憶になった。
「これ……小舎人。なんでそちは、わしの顔ばかり見ているか」
 秀郷は、彼のぶしつけな視線に、不快をおぼえたのか、やがて、馬の説明を終ると、こう叱った。
「よも、白痴《うつけ》ではあるまいに。ジロジロと、不気味な奴だ」
 小次郎は、それが、忠平の耳へもはいったと思ったので、はっと、身をすくめ、われにもあらず、地へ、ぬかずいてしまった。
「おお、どうされたの客人……」と、果たして、忠平は、聞き咎めて——「その、小舎人を、御存知か」
「いや、見も知りませぬが……」
「なにか、粗相いたしたか。その召使は、お汝《こと》の国もとに近い、下総の良持の子じゃがの」
「良持? ……と、仰っしゃると、下総の豊田の郷にいた平良持がことでございますか」
「そうじゃよ。知らんかの。常陸の国香から添え手紙あって、生来、痴鈍《ちどん》な童、故あって、郷里にもうとまれ、とかく、肉親《はらから》たちとも、折合いのむずかしい者故、長く、当家の下僕のうちになと、飼いごろしに、召使うてくれいとあったので——そのまま館においておる」
「これは、亡き良持の、何番目の伜にございますか」
「さあて。三男やら、四男やら、そのほどは弁《わきま》えぬが、良持の子とは、国香の状にもあった。多分、外《そと》の妾《おんな》の子でもあろうか。ともあれ、鈍な子と、国香の添え状にも、ことわりのあった者じゃ。何か、粗相をしたなら、ゆるしてやれい」
 小次郎は、地にぬかずいている耳へ、そのまぢかな声が、何か、ただがんがんと、地うなりのように聞える心地で、満足には、聞きとれなかった。
 忠平のことばの途中から、くわっと、血が逆上《の ぼ》っていたためである。熱い、充血した面とは反対に、体はさむく、芝の夜露に、身も耐えないほど、がくがくと、ふるえに襲われていた。
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